エルサレム首都認定のトランプ米大統領に苦言であふれた「サンモニ」
◆テロ増大懸念する声
トランプ米大統領が6日に発表したイスラエルの首都エルサレムの承認に、国際社会は騒然とした。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界3大一神教の聖地が存在するエルサレムをめぐって、まさに歴史を通した争いが続いているからだ。
城壁に囲まれた旧市街(東エルサレム)には、ユダヤ教の聖地である嘆きの壁、キリスト教の聖地である聖墳墓教会、イスラム教の聖地である岩のドームがあり、50年前の第3次中東戦争(1967年)でエジプト、シリア、ヨルダンなどアラブ諸国に勝利したイスラエルの占領が続いている。東西冷戦時代のことで、その後も旧ソ連が支援したパレスチナ側が激しいゲリラ戦を行い、長らく「世界の火薬庫」と呼ばれてきた。
このため、トランプ氏の決定は一大ニュースとなったが、先週日曜の10日、この問題を正面から取り上げたのはTBS「サンデーモーニング」ぐらい。やはり、多神教的風土の日本では縁の薄いテーマなのだろう。
出演者は「過激なイスラム教徒だけでなく、尊敬すべきイスラム教徒も敵に回す」(福山大学客員教授・田中秀征氏)、「パレスチナ側からすると、今までイスラエル側の主張と力によって既成事実化されてきた歴史があり、…自分たちの主張を知ってもらうためにはテロ行為という形で世界に発信するしかない」(NPO「日本紛争予防センター」理事長・瀬谷ルミ子氏)と、イスラム教徒の過激化、テロの増大を懸念した。
◆公約の実現を意識か
イスラエルはエルサレムについて西も東もなく、まるごと首都であると主張している。トランプ氏の決定に、ネタニヤフ首相は「3000年にわたるイスラエルの首都」と述べながら歓迎したが、聖書のダビデ王によるエルサレム攻略までさかのぼるほど悠久なる歴史認識がある。一方のパレスチナ側は、将来のパレスチナ国家の首都にイスラム教で3番目に重要な聖地・岩のドームがある東エルサレムを位置付けている。
双方譲らず、米国は、敏感な宗教問題を伴う東エルサレムの帰属問題には慎重な立場を取り、1995年にクリントン政権時代の連邦議会で民主党・共和党の党派を超えた支持で成立した、大使館エルサレム移転法に大統領が6カ月ごとに署名を延期してきた。
今回、トランプ氏は署名した。これには「自分勝手だ。もっと日本に反対表明してほしかった」(評論家・大宅映子氏)、「喜んでいる人は自分の支持者だ。もう一つはロシア疑惑の目くらましだ。一番心配なのは外交が不在で、中東のプロは一切関係していない」(元外務事務次官・藪中三十二氏)など、これまでの和平に向けた国際的な努力がご破算になるだけに手厳しい。
「喜んでいる人」は、米社会で大きな力を持つユダヤ系団体や約3000万人の保守的なキリスト教徒のこと。娘婿のクシュナー大統領上級顧問ら家族や支持層の信仰、資金、影響力、票などを、決定を批判する声の数より優先するものがトランプ氏にあったことは事実だろう。
また、「トランプ大統領は本気なのか、まだ私はよく分からない」(BS―TBS「週刊報道LIFE」キャスター編集長・松原耕二氏)など、トランプ政権が具体的に大使館を移転するには3~4年かかるとしているため疑問も出ていた。多分にトランプ氏自身の選挙公約の実現を意識した、選挙パフォーマンスと見えるのも確かである。
◆宗教問題には触れず
ところで、トランプ政権そのものが、国際化の進展に不利益を感じて憤った有権者の支持が原動力となって登場した。イスラエルとイスラエル贔屓(ひいき)のトランプ氏支持者が、国際社会での不利を感じる場面があることも否めまい。
例えば昨年のヘブロン旧市街の世界遺産登録だ。3大宗教共通の信仰の祖アブラハムの墓のある聖地が含まれ、ここをパレスチナ側に分類した世界遺産として国連教育科学文化機関(ユネスコ)が認めたことに、イスラエルは激怒。米国とイスラエルは10月、「反イスラエルへの偏向」を理由にユネスコ脱退を表明した。
その意味で、イスラエル側を刺激している問題の存在もあり、自治区のガザを実効支配するイスラム過激派組織ハマスの問題を含めて、こちらの方は触れていない。根深い宗教問題であり、触らぬ神にたたりなしということか。
(窪田伸雄)