大相撲の日馬富士暴行事件で“当事者”貴乃花の心情に多少迫った新潮
◆沈黙を貫き「悪役」に
大相撲の日馬富士暴行事件がいまだに解決していない。テレビのワイドショーでは連日取り上げられているが、同じことの繰り返しで、さしたる進展もなく、食傷気味の視聴者はこの話題が出てくるとチャンネルを変えるというほどだ。
週刊誌こそ、この事件の深層を探り、真相を伝えてほしいのだが、一方の“当事者”である貴乃花親方と貴ノ岩が取材に応じていないため、お手上げだ。しかし、その貝の口をこじ開けて聞き出すのが週刊誌でもある。週刊新潮(12月21日号)が「沈黙の『貴乃花』が心情吐露!」の記事でいくらかそれに迫っている。
今、テレビで伝えられる貴乃花は完全に“ヒール”(悪役)である。△日本相撲協会の理事でありながら、協会への報告の前に警察に被害届を出した△理事会の事情聴取に応じず、貴ノ岩の聴取にも応えていない△理事会では八角理事長の前の席に座ってそっくり返った“非協力的態度”を見せていた――、といった具合だ。
まず、貴乃花は本当に協会に報告するつもりはなかったのだろうか。この点について同誌は、「貴乃花親方は、タニマチに次のように告白した」として、「加害者である日馬富士の師匠、伊勢ヶ濱親方に連絡した。でも、どのように対処したらいいのか判断がつかないと。最終的には、伊勢ヶ濱親方から協会に報告するということになりました」という。これが本当なら、貴乃花は伊勢ヶ濱に協会への報告を託したつもりでいて、協会をないがしろにしていたわけではない、ということになる。
◆協会の本気度を疑う
さらに、「鳥取県警から相撲協会に正式な連絡が入ったのが11月2日。それから、スポニチが暴行事件をスクープする14日まで、2週間近くの空白期間」があったが、その間、協会は「伊勢ヶ濱、貴乃花に電話で聴取したほかは、ほとんど調査を行わなかった」という。事態をうやむやに済まそうとしていたのかもしれないという疑いが生じる。これでは貴乃花が不信感を抱いても無理はない。だから、その後、いくら協会がアプローチしても、貴乃花にしてみれば、協会の事件解明の本気度への疑いを消せないのだろう。
理事会で貴乃花は何も説明もしなかったのか。これについても、同誌は「11月30日に開かれた理事会で、その理由を説明しようとした。ところが、八角理事長の傍に常に付き添っているスポーツ報知出身の広岡勲という理事補佐に言葉を遮られ、何も聞き入れてもらえなかった」と、「タニマチ」に話していたという。
これが事実であれば、印象はだいぶ違ってくる。同誌は貴乃花が「ハメられた」可能性にも触れているが“状況証拠”だけで弱い。
また「本当のワルは白鵬」という話も出てきている。△暴行事件のきっかけは白鵬の説教だった△貴ノ岩が殴られ始めると、鶴竜がかばったり、照ノ富士も暴行を止めようとしたが、白鵬は放置していた△もともと貴ノ岩の出身校力士の集まりだったのに、白鵬らモンゴル力士が加わっていた――、これらのことを見ると、「モンゴル力士」グループの在り方、意識などもじっくりと検証すべきだろう。
◆切り込み不足の文春
同誌は「『白鵬』モンゴル一門結成を支える勘違い『美人妻』」の記事で、白鵬ではなく、おかみさんに焦点を当てている。だが、これはおかみさんの“行状”が問題だと言う記事で、白鵬が抱く野望「モンゴル一門結成」の話を深く突っ込んだものではない。
事は「国技」大相撲の話だ。そうそう“流儀”が変わってもらっては困る。日本人が思う「品格」と、モンゴル人力士が理解する「品格」とはどうも違うようだ。第一、常に批判されている白鵬の「ダメ押し」。敵を殲滅(せんめつ)してきた民族と、「参りました」という敵をそれ以上追及しない島国の民とでは勝負の意味が違う。だから、日本人力士はモンゴル人力士に比べて“弱い”のかもしれない。ともかく、モンゴル一門の結成が考えられているとすれば、慎重に対処すべきだ。
週刊文春(12月21日号)でも「貴乃花が許せない相撲協会“三悪人”」の記事を載せている。許せないのは「八角理事長、尾車親方、白鵬」だという。同誌は北の湖理事長亡き後の理事長選で表面化した対立の構図を描き出してはいるが、経緯の説明がほとんど。白鵬の批判もしているが、周辺だけを嗅ぎ回っているようで、核心には切り込んでいない。まだ、その時ではないのだろう。
(岩崎 哲)