「中道」ばかり強調し共産党流の「野党共闘」を薦める日経コラム「風見鶏」

◆保守に純化が敗因?

 「負けに不思議の負けなし」。こんなタイトルの記事が日経の政治コラム「風見鶏」に載った(10日付)。希望の党の敗北を分析し野党の在り方を論じたもので、筆者は政治部次長の佐藤理氏。日経は経済新聞らしいリアルな分析が売りだが、このコラムはどうもしっくりいかない。

 というのは、事実関係を押さえず一政治学者の主張を鵜呑(うの)みにし、「野党が複数に割れて、与党に挑むのは悪手」「政権選択をいくら唱えても選挙に勝てなければ意味がない」として「負けが続く野党はもう一度、小選挙区制での戦い方を見つめ直すべきかもしれない」と書いているからだ。

 これではまるで共産党流の「野党共闘」の薦めではないか。日経は政策抜きの野党共闘を批判してきたはずだ。とりわけ国家の基本となる安保・外交政策や消費税問題を棚上げにした共闘に否定的だった。だから希望の党が公約を発表した際、「憲法改正や安全保障政策を積極的に議論していく姿勢にも期待したい」と評価した(10月7日付社説)。

 ところが、佐藤氏はこうした自社の論調を意に介しないで「(小池百合子代表が)安全保障関連法や憲法改正への賛成を求め、左派やリベラルを拒んだ。自民党より保守に純化した結果」惨敗したとしている。この見立てはどう考えても腑(ふ)に落ちない。

 希望の党が自民党より保守を純化させた? それはない。「第二自民党」(志位和夫・共産党委員長)のレッテルを貼られたが、純化とは言われなかった。民進党議員が“当選ファースト”でなだれ込み、政権選択と言いつつ総理候補がおらず、不信を買った。おまけに排除された側(立憲民主党)に判官びいきの心理が働いた。それが敗因だろう。

◆新進と民主うり二つ

 なぜ佐藤氏は「純化」と書くのか。それは加藤淳子・東大教授の「(小選挙区で勝つには)保守の自民党とは異なる位置で、多くの支持を得られる『中道』を含む位置が有利」との発言に説得力を持たせたいからだろう。加藤氏は希望の党の失速は過去の政党再編からも予測されたとし、「『自民党より右寄り』ともいわれた新進党の失敗だ」と説いている。

 この見立てにも首をかしげる。新進党は小選挙区制導入を控えて非自民・非共産勢力(新生党や公明党、民社党、日本新党など)がにわかにつくった寄り合い所帯の新党で、党内抗争が絶えず、わずか3年で霧消した。自民党より右寄りとの話は聞いたことがない。

 加藤氏は、新進党とは対照的だったのが政権交代前の民主党だとする。「中道寄りで、所属議員の立場が左右に広かったことで支持獲得に有利に働いたことは間違いない」と説き、ここでも「中道」を強調している。

 確かに民主党は旧社会党の左派から反共だった旧民社党の右派まで「左右に広かった」。脱自民党票の受け皿となり政権が獲得できたが、それは敵失(自民党の自滅)の要素が強い。政権獲得後は左右混在ゆえの稚拙な政権運営で、わずか3年で下野した。新進党と対照的でなく、そっくりだった(そういえば、両党とも小沢一郎氏が主導した)。

◆右寄りでも大量得票

 中道寄りでないと票が獲得できないように論じているが、それはウソだ。2012年の総選挙で「第三極ブーム」を起こした維新の会やみんなの党がよい例だ。このことにコラムは沈黙している。

 両党とも改憲を唱え、自民党より右寄りと評されたが、維新は石原慎太郎氏と橋下徹氏の2枚看板で、比例で1226万票を獲得、渡辺喜美氏のみんなの党の525万票を合わせると実に1751万票を得て、自民党の1662万票を凌駕(りょうが)した。

 これは中道でなく、右寄りでも政権獲得の可能性を示唆している。コラムでは左寄りの発言の多い自民党の河野太郎氏(現外相)の「そもそも自民党支持者は保守の人が多い。もっと支持を広げるなら、左に伸ばすのは当然でしょ」との発言を紹介している。ならば野党には「右に伸ばす」ことを薦めるべきなのに「中道」ばかりを強調する。

 「負けに不思議の負けなし」。中道でないから負けるのではない。選挙目当てだったり、政策抜きの野合だったりするからだ。日経の政治部次長のコラムも「負け」である。

(増 記代司)