伊方原発の運転差し止めを決定した高裁の見識を酷評する読売・産経

◆仮処分の弊害顕在化

 読売が「証拠調べを十分に行わずに短期間で判断する仮処分は、効力も即座に生じる。高度な知見を要する原発訴訟への適用は慎重であるべきだ、とかねて指摘されてきた。その弊害が改めて顕在化した」(14日社説、以下、朝日を除いて各紙同社説)と弊害の顕在化例にすれば、小紙も最高裁が1992年に、伊方原発の安全審査訴訟の判決で「極めて高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政の合理的な判断に委ねられている」とした判例から「今回の決定は不適切で受け入れ難い」と断じた。読売はさらに「原発に限らず、破局的噴火を前提とした防災対策は存在しない」のに「殊更にこれを問題視した高裁の見識を疑わざるを得ない」と見識まで持ち出して酷評している。

 社説が問題視したのは、広島、愛媛両県の住民が四国電力伊方原子力発電所3号機について運転差し止めを求めた仮処分の即時抗告審で、広島高裁の野々上友之裁判長が13日に、訴えを退けた3月の広島地裁決定を覆して差し止め命令を決定したことについて。3号機は一昨年7月に、原子力規制委員会(規制委)の安全審査に合格している。

◆九州全滅の噴火想定

 野々上裁判長は「阿蘇山(熊本県)が破局的噴火をした場合、火砕流が原発に到達する可能性がないとは言えない」と指摘した。9万年前の阿蘇山の巨大噴火を例に挙げ、130キロ離れた伊方原発に火砕流が到達する可能性に言及したのである。仮処分で原発を止める司法判断、火山噴火の危険性を理由にした差し止めはそれぞれ初めて。

 差し止め仮処分に厳しい批判を加えたのは産経(主張)も同様で「阿蘇の大噴火が理由とは」のタイトルにも驚き、あきれをにじませた。「あまりに極端だ。そうした噴火が起きれば、原発以前に九州全体が灰燼(かいじん)に帰する」わけだからである。

 高裁は「逆転決定の理由の中で、想定したレベルの破局的噴火の発生確率が『日本の火山全体で1万年に1回程度』」と認め、さらに「その種のリスクを無視し得るものとして容認するという社会通念が、国内に定着しているという常識論も述べて」おきながら、一方で、規制委策定の「火山事象の安全審査の内規に、破局的噴火の火砕流が含まれていることを、運転差し止めの根拠とした」ことに言及。「全体に強引さと言い訳めいた論理展開が目立ち、説得力に乏しい決定」だと厳しく批判したのだ。

 常識でモノを考えれば、その通りであろう。

◆朝毎も戸惑い隠せず

 これらに対して「脱原発」路線の朝日(15日社説)、毎日は、理由は何であれ差し止め決定支持を掲げた。掲げたのではあるが、「根源的問い」とか「重い問い」とか、いつになくもったいぶった物言いに、棚からぼたもちの高裁決定の意外な理由への戸惑いを推測するのは考え過ぎであろうか。

 高裁決定を「火山列島の日本で原発を稼働することへの重い問いかけだ」「根源的問いを投げかけた」とした朝日。高裁は、巨大噴火で「原発が被災する可能性は『十分小さい』とはいえない」とする火山学者の見解を踏まえて「規制基準を満たしたとする規制委の判断を『不合理』だと結論づけた。/火山ガイドに沿った厳正な審判が行われていない、という判断」だと評価した。毎日も「世界有数の火山国である日本は、原発と共存することができるのか。そんな根源的な問いかけが、司法からなされた」と評価。「国や電力会社は重く受け止めるべきだ」と迫ったのである。

 一方、日経は運転差し止めの高裁判断が来年9月末までと「時限措置がつく点を含め変則的」なことに言及した。産経はこの期限付きを「自信のなさ」とこき下ろしたが、日経は「この問題は広島地裁で審理中の訴訟で争点になっている。地裁での判断を待つために、高裁」が期限を付けたとして、決定を重く受け止め「差し止め期間を噴火対策を改めて点検する猶予期間とみなし、広島地裁の訴訟などで説明を尽くす」よう求めた。

 その上で、原発の差し止め申請では、これまで裁判所の決定が正反対だったり、判断の根拠もまちまちだったことを指摘。司法当局にも「判例を重ねて、司法判断に一定の目安ができるのが望ましい」と注文を付けたのである。

(堀本和博)