プーチン氏早くも出馬表明

投票率低下が最大の課題

 ロシアのプーチン大統領は6日、「ロシアの大統領の職に立候補する」と述べ、来年3月18日に予定される大統領選に出馬する意向を明らかにした。プーチン大統領の圧勝は確実とみられるが、無風選挙で投票率が下がれば、当選したとしても大統領の“正統性”に傷が付く。欧米との対立を念頭に“戦時経済”体制を表明し、有権者の引き締めを図っている。
(モスクワ支局)

来春ロシア大統領選
“戦時経済”表明で有権者引き締め?

 ロシアの次期大統領選で、プーチン大統領の圧勝は確実とみられる。しかしそのプーチン大統領は自らの立候補について明言を避けてきた。

プーチン氏

6日、モスクワで開かれたイベントに出席したロシアのプーチン大統領(EPA=時事)

 クレムリンはこれまで、プーチン大統領を「慈悲深い皇帝」とする演出を繰り返し行ってきた。ロシア各地で開かれるイベントでは、プーチン大統領が当該地域の知事らに、国民の陳情などさまざまな要望が書かれた書類を渡し、知事らがそれを恭しく受け取る“儀式”が行われてきた。

 国政や地方行政のさまざまな問題は、閣僚や知事らの職務怠慢から起きている。一方で大統領は、常に国民の生活に心を配っている。各地のイベントに知事らを呼びつけ、厳しい表情で国民の要望を突き付け、問題の解決を指示する。

 「慈悲深い皇帝」は、一段高い位置にある存在だ。立候補を表明すれば、他の候補者と同等の立場に引き下げられることになる。だからこそ立候補表明はぎりぎりまで遅らせたほうが良い。プーチン大統領の出馬表明は、どんなに早くても年末、との見方が強かった。

 今回、プーチン大統領が出馬表明したのは、ニジニーノブゴロドにある自動車工場でのイベントだった。

 この前日の5日には、国際オリンピック委員会(IOC)が、組織的なドーピングとその隠蔽(いんぺい)を理由に、来年2月の平昌冬季五輪に、ロシア選手団としての出場を認めないと発表していた。個人としての参加は可能なものの、極めて厳しい決定であることに違いはない。

 オリンピックなどを国威発揚の場としてきたロシアにとって極めて大きなダメージであり、国民の落胆と不満は大きい。プーチン大統領の唐突な出馬表明には、五輪出場禁止の報道を打ち消す狙いがあるとみられる。

 一方で、大統領選の最大の課題は、投票率だ。有力な対立候補がいれば国民の関心は高まり、投票率は上がる。しかしクレムリンは、不測の事態を恐れ、ロシア政府の汚職追及やプーチン批判で知られる野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を選挙から排除した。

 プーチン大統領の恩師の娘で、クリミア併合などを批判するクセニア・サプチャクさんが出馬を表明したが、力不足の感は否めない。「世論調査」基金によれば、プーチン大統領に投票するという回答者68%に対し、自由民主党のジリノフスキー代表は7%、ロシア共産党のジュガーノフ委員長は4%、野党「ヤブロコ」の創設者ヤブリンスキーと、クセニア・サプチャクさんはそれぞれ1%だった。

 結果が分かり切っているなら、有権者はわざわざ投票所に足を運ばないだろう。そのような中でクレムリンが切ったカードは「欧米との対立」の演出だ。欧米との対立を国民に印象付けることで引き締めを図り、プーチン大統領の求心力を高めて投票率を上げようという算段だ。

 プーチン大統領は先月22日、軍事演習「西方2017」の総括を行う会合で、閣僚や、国防省や軍産複合体の幹部を前に、「国際情勢の緊迫化によりロシアは、戦争の可能性に対し、国家として準備する必要に迫られている」と発言した。

 この準備は、軍事面だけにとどまらない。プーチン大統領は、「必要な時に、軍事物資の生産量を速やかに増加させることは、国家安全保障の重要な条件の一つ」と述べ、民間を含むすべての大企業は、有事に際し、戦争遂行に必要な物資の生産量を増やすことができるよう、準備を行わなければならないと強調した。

 これに対し、経済学者で、元会計院長官であるユーリー・ボルディレフ氏は、近年、ロシアの資本流出が約3倍に増加したことを指摘した上で、「本気で行うなら、まず海外への資本流出を厳しく取り締まり、生産リソースを国内にとどめる政策から始めるべき。そうでない以上、大統領選挙に向けたPRにすぎない」と語っている。