自公圧勝でもアベノミクス「再加速の前に」と訴える東京の民意無視
◆生産性革命こそ必要
衆院選は「国難突破」「アベノミクスの再加速」を訴えた自公が絶対安定多数を超える圧勝で終わった。
選挙後、「アベノミクス」に焦点を当てた社説を掲載したのは、読売、日経、産経、東京で、朝日、毎日はなし。リベラル系の新聞に元気がないのも無理からぬことと言えるが、独り掲載した東京は、選挙結果を素直に受け取るなら付くはずのない見出し「再加速の前に検証せよ」(10月25日付)と強弁を張ったが、やはり論拠は薄弱。
それに比べ、保守系紙は「脱デフレへ成長力を強化せよ」(読売24日付)や「日本経済の持続力高める改革急げ」(日経24日付)、「消費増税乗り切る経済を」(産経25日付)と、アベノミクスをどう再加速させるかに焦点を当てていて、はるかに説得力がある。
東京は「格差を放置せず、効果が見込めないアベノミクスには見切りを付け、労働分配率を高めさせたり所得の再分配に力を入れるべきだ」と強調するが、まず、選挙結果が示す民意を東京は全く無視している。
また、安倍政権は既に成長一本やりから軌道修正し、労働分配率を高める政策をも進めている。最近の「働き方改革」などがそれである。東京などは「看板を付け替える」だけと批判し、確かに「〇〇改革」などと「改革」が登場し過ぎるきらいはあるが、しかし、時の状況に応じて政策を変更するのは当然。ただ、それでも経済成長あっての政策ということである。
人口減少時代に突入しているだけに、労働分配率を高めようとすれば、それだけ成長を高める必要があり、それこそ「生産性革命」が必要である。アベノミクスの再加速ということである。
◆社保制度改革も課題
東京は「物価目標も財政再建目標も達成できず」と批判するが、物価目標(日銀の管轄)はともかく、財政再建目標は難しいながらも、成長政策により7年連続の税収増を達成し、改善に向け着実に歩みを進めたことは確かである。
問題は、東京のように再加速をやめることではなく、保守系紙の言うように、どう加速させるかである。
読売社説が説くのは、「大胆な規制改革で民間の資金や活力を最大限活用し、経済の好循環につなげること」である。政府は、2018~20年度を「生産性向上・集中投資期間」と定め、人工知能やロボット、医療分野などの情報技術(IT)への投資を促進するが、いかに成長戦略を強化し、具体的な成果を生み出すか、ということである。正論だが、一般論の域を出ず、物足りなさが残る。
日経は、日本が取り組むべき優先課題は、「財政や社会保障制度の立て直しと成長力強化の両立である」として、政府・与党にその実現に集中的に取り組むよう求めた。
日本経済を長期的な視点で見れば、社会保障や財政の将来不安が個人消費や企業の設備投資の足を引っ張ってきたのも事実だ、という理由からである。
確かに、医療や介護などの社会保障制度をどう改革するかという問題は重要で、同紙は年末の予算編成で所得や資産にゆとりのある高齢者向けの歳出抑制や、20年度以降を含む社会保障改革の中長期の工程表をつくってはどうか、と提案するが、一案である。
産経の「消費増税乗り切る…」は、当面の取るべき経済政策を指摘していて、肯(うなず)く点が少なくない。
◆歳出入改革の議論を
産経が指摘するように、足元の景気は企業収益や雇用が改善する一方で、賃上げに勢いはなく、消費も力不足である。「これを打開し、景気回復の実感を伴う力強い成長を果たすことこそ、国民の望むところ」(同紙)であり、「安倍政権には、増税に耐えられる経済環境を確実に整える責務がある」(同紙)ということである。
産経は、消費増税については「増税は景気を冷やすが、安定的な社会保障財源を確保するためにはやむを得ない」というスタンス。今回は「増税を掲げて大勝した。その意味は大きい」とも言う。
19年10月予定の10%への消費税率引き上げの是非はともかく、同紙なども指摘するように、「成長に伴う税収増は有効だが、それだけでは不十分だ。歳出、歳入の両面の改革をいかに進めるかを含め、議論を詰めてほしい」のは確かである。
(床井明男)