オバマ前米政権、ソロス氏系団体に資金提供
オバマ前米政権が米国内外で過激な左翼運動を支援する著名投資家ジョージ・ソロス氏の組織と協力し、東欧の小国の左翼勢力に資金提供して政治的混乱を助長していたことが分かり、米議会からトランプ政権に調査と是正を求める声が出ている。米社会のリベラル化を推し進めたオバマ政権だが、対外政策でもその傾向が顕著だったことを示す一例だ。(編集委員・早川俊行)
東欧マケドニア 左翼運動支援し混乱助長
オバマ政権とソロス氏の組織の協力関係が問題になっているのは、バルカン半島のマケドニアだ。
国務省傘下の対外援助機関、国際開発局(USAID)は2012年、ソロス氏が会長を務める「オープン・ソサエティー財団」のマケドニア支部(FOSM)と提携し、同国の市民団体を支援するプロジェクトをスタート。2012年から16年までに、ソロス氏系の左翼団体を中心に約4万8000㌦(約5億4000万円)を提供した。
プロジェクトは延長が決まり、21年までの5年間にさらに9万5000㌦を助成する予定。決して莫大(ばくだい)な金額ではないが、人口約210万人というマケドニアの国家規模を考えると、その影響は無視できない。
世界37カ国に支部を持つオープン・ソサエティー財団は、巨額の資産を持つソロス氏が自身の「進歩的イデオロギーを世界中に広げるために設立した組織」(米ヘリテージ財団のマイク・ゴンザレス上級研究員)だ。オープン・ソサエティーという言葉が示す通り、国家主権や国境のないグローバル・ガバナンスを理想とし、麻薬や同性婚の合法化など伝統的価値観に縛られない社会の実現を目指している。
この問題を調査するマケドニア人ジャーナリスト、ツヴェティン・チリマノフ氏によると、FOSMは米政府から資金提供された左翼団体と共に、共産党を前身とする左派野党・社会民主同盟連合と連携し、保守政権の打倒を目指す反政府運動を活発化させたという。
ソロス氏系の団体が主導した反政府デモは次第に暴徒化し、大統領オフィスなど政府施設を破壊。デモ参加者には報酬が支払われたとされ、結果的にオバマ政権は過激デモに資金提供したとも言える。
過激な抗議行動で混乱を煽(あお)り、社会を不安定化させて圧力を掛けるのは、ソロス氏の常套(じょうとう)手段だ。ソロス氏は、全米で広がった過激な反警察運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」に資金提供したほか、今年2月、放火など暴動に発展したカリフォルニア大バークリー校での「反トランプ」デモも、ソロス氏が資金提供する団体がデモを主導した組織を支援していたと報じられている。
チリマノフ氏は「ソロス氏が資金提供する米左翼団体の戦術がマケドニアに持ち込まれた」と指摘。FOSMは実際、米左翼勢力の活動マニュアルとなっているシカゴの伝説的な極左活動家、故サウル・アリンスキー氏の著書「過激派のルール」のマケドニア語版出版に資金を出している。
アリンスキー氏といえば、オバマ前大統領や昨年の米大統領選の民主党候補クリントン元国務長官が若い頃、その思想に傾倒したことで知られる。
米共和党が調査・是正を要求
マケドニアでは、昨年12月の総選挙で保守派の与党・マケドニア民主党連合が第1党の座を維持したものの、第2党の社会民主同盟連合がアルバニア系政党との連立政権樹立で合意。だが、ジョルゲ・イワノフ大統領がこれを承認せず、政権は発足していない。
先月末、社会民主同盟連合が強引にアルバニア系議員を国会議長に選出したことに反発した与党支持者らが国会に乱入し、100人以上の負傷者を出すなど、混乱が続いている。
米共和党は、オバマ政権が国民の税金で他国の左翼運動を支援していたことを問題視。また、オバマ氏が起用したジェス・ベイリー駐マケドニア米大使は、社会民主同盟連合中心の連立政権を後押ししたといわれている。
6人の共和党上院議員は3月、ティラーソン国務長官に連名で書簡を送り、「米大使館がマケドニアの党派政治に積極介入し、左翼政治組織を支持していたことが本当なら、極めて問題だ」と批判。こうした事例は東欧にとどまらず、「中南米やアフリカ諸国からも同様の懸念を耳にしている」と主張した。
トランプ政権に対し、オバマ政権のリベラルな外交政策の是正を求める声が強まっているものの、思うように進んでいない。トランプ政権の人事は大幅に遅れ、国務省でも前政権から残るキャリア官僚が中枢を占めているためだ。批判を浴びるベイリー氏も、マケドニア大使の職を続けている。
共和党のマイク・リー上院議員は先月、ワシントン市内での講演で、「トランプ大統領は米国の利益を優先し、他国の主権を尊重する外交へと文化を改めなければならない」と主張し、オバマ外交からの決別を要求した。