沖縄反基地活動に関する他メディア特集を「反省」する東京新聞の不可解さ
◆被害訴える地元住民
メディアの使命の一つは権力監視である。また、メディアの相互批判も民主主義の健全な発展には欠かせない。従って、新聞がテレビ番組を批判することは、横並びの馴れ合い報道に楔(くさび)を打ち込み、読者や視聴者の視野を広げることにつながるから歓迎すべきことだ。
だが、東京新聞2月2日付1面に大きなスペースを取って掲載した「『ニュース女子』問題深く反省」には驚かされた。テレビ番組への批判を通り越し、その内容についての「責任と反省」を表明していたからだ。
問題となったのは1月2日放送の「ニュース女子」。この番組は東京メトロポリタンテレビジョン(東京MXテレビ)が毎週月曜夜に放送する情報バラエティーで、制作しているのは外部の「DHCシアター」。そのホームページによると、「タテマエや綺麗(きれい)ごとは一切なし!本音だらけのニュースショー」で、同テレビのほか一部地方局と、放送終了後にはYouTubeにも掲載している。
それで、YouTubeに掲載されている番組内容を見ると、沖縄県東村高江のヘリパッド建設反対をはじめとした反基地活動の実態報告だった。その中で、軍事ジャーナリストの井上和彦が沖縄に飛び、地元住民に取材。「僕ら村民の日々の生活が止まってしまうくらい公道に違法駐車して道路を封鎖する」などと、被害を訴える声を拾った。そして、「テロリストみたい」と驚く井上に、住民は「テロリストと言っても全然大げさではないと思います」と語っていた。
さらに、東京で配布されたというチラシを映し出し、そこに「飛行機代相当、5万円を支援します」との記載があることや、基地周辺で見つかったという茶封筒に「2万円」と書かれていた事実から、反対運動の参加者に日当が渡されているのではないかとの疑問を呈していた。
◆論説副主幹が司会
この番組内容に対して、東京新聞が「社の主張と異なる」と述べるのは構わない。しかし、「責任と反省」を表明するのはどういうことか。同紙が番組に深く関わっているのか、と考えるのが普通だろうが、そんなことはない。
両者の関係といえば、同紙を発行する中日新聞東京本社の総本部・中日新聞社が番組を放送した東京MXテレビの株主であること(筆頭株主はエフエム東京)。そして、同紙論説副主幹・長谷川幸洋が番組の司会を務めていることぐらいで、内容に責任を持つ立場にないことは明らかだ。
それでも、東京新聞の読者部には批判と見解を求める声が250件以上も届いたという。その主な理由は、長谷川が司会を務めていたことのようだが、論評していたのは出演者で、当人は資金の出所を知りたいと当然のことを述べたぐらいで、ほとんどしゃべっていない。
ところが、前述の1面記事は「論説主幹・深田実が答えます」として、「事実に基づかない論評が含まれており到底同意できるものでもありません」としている。他のメディアの報道内容に同意する必要のない立場の人間が「到底同意できない」と、言わずもがなのことを述べておきながら、「事実に基づかない論評」とは具体的にどの内容なのかを明確にしていない。
◆BPOが番組を審査
実際に、番組に虚偽の内容があったのなら、それを具体的に指摘し批判すればいいだけのこと。それもせず「他メディアで起きたことであっても責任と反省を深く感じています」というのには不可解である。要は「とりわけ副主幹が出演していたことについては重く受け止め、対処します」とあるから、事実関係よりも長谷川の出演が一番の問題だったのだろう。その長谷川は「意見が新聞と異なるのを理由に私を処分するのは、言論の自由に反する」(講談社「現代ビジネス」)と反論し、ジャーナリストとして骨のあるところを見せている。
一方、放送倫理・番組向上委員会(BPO)放送倫理検証委員会がこの番組の審議入りを決めるなど、波紋が広がっている。BPOがどのような結論を出すにせよ、「ニュース女子」に注目が集まり、過激な反対活動の実態が明らかになるなら、番組の貢献は決して小さくない。
(敬称略)
(森田清策)