サイバー選挙妨害、米大統領選を教訓に対策急げ
米国家情報長官室が米大統領選をめぐるサイバー攻撃にはロシアのプーチン大統領が指示したものがあると結論付けた報告書を6日に発表し、米メディアはトランプ次期大統領に対しても疑惑の目を向けていることが、同氏の11日の記者会見の質疑であらわになった。ネット時代に起きた選挙不信であり、わが国も深刻に捉えて対策を急がなければならない。
政権運営に支障を来す
トランプ次期大統領の立場に立てば、自身の当選に疑いを招く米政府報告書を認め難いだろう。昨年の大統領選レースは民主党のヒラリー・クリントン候補と共和党のトランプ氏との接戦で、暴言で注目を集めるトランプ氏の選挙運動は支持者も不支持者も感情的にした。
選挙中に、外国からサイバー攻撃によって一方の候補陣営に不利になるようにハッキングによって不正に入手した情報を拡散させたり、「偽ニュース」を流すことは極めて深刻な事態だ。民主主義政体の基礎である選挙が疑われては、政権運営に支障を来し、国益を損なう。
昨年の米大統領選挙では、民主党全国委員会のサーバーが何者かによってハッキングされて機密情報が流出し、本選候補を正式指名する民主党大会前の7月22日に内部告発サイト「ウィキリークス」で暴露された。
民主党全国委員会から流出した情報にはクリントン氏と本選候補指名を争ったバーニー・サンダース上院議員の勢いを止めようとする内容もあり、クリントン氏のイメージを損なった。米政府報告書では、米国の民主主義への信頼を揺るがせてクリントン氏当選を妨げるため、ロシアのプーチン大統領が軍事情報機関に指示し、2015年7月から昨年6月まで民主党のネットワークに侵入して入手したデータを告発サイトやマスコミ、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)に向け情報工作に使ったとしている。
11日の記者会見でトランプ氏はオバマ政権下の同報告書に懐疑的な発言を繰り返し、トランプ政権が発足してから再調査して90日以内に改めて報告する考えを表明した。また、サイバー攻撃はロシア以外にも中国などいろいろと考えられるとし、民主党全国委員会のサイバー・セキュリティーにも問題があったとも指摘した。トランプ氏はサイバー攻撃に対する特命チームを発足させることを米政府が報告書を出した6日に表明してもいる。
また、米大統領選では候補者のイメージを左右するような多くの“偽ニュース”が作られてネット上に拡散された。その影響の広がりは、携帯端末でしか情報を入手しない人が増えたことでもある。
信頼ある情報の発信を
これらの現象は、全ての民主主義国家が警戒すべきであり、わが国にも第三国から選挙への信頼を揺るがすようなサイバー攻撃や情報工作がないとは言えない。サイバー・セキュリティーを堅固にする一方、携帯端末が普及し、情報をネットに依存する率が高まる中で、信頼ある情報を発信するメディア各社が正しく存在感を増すように努めていく必要がある。