悲劇の「シャペコエンセ」 奇跡の復活へ動きだす
ブラジルサッカー史上最大の悲劇となったコロンビアでの墜落事故から1カ月――。監督と主要選手を事故で失ったブラジル全国1部「シャペコエンセ」は、来日予定も含めクラブ復活に向けて動きだしている。(サンパウロ・綾村 悟)
サッカー界から支援相次ぐ
スダメリカ杯の優勝チームとして来日予定
「ブラジルの地方クラブによる南米タイトルの制覇」という奇跡を演じようとしていたシャペコエンセを、悲劇の飛行機事故が襲ってから1カ月が経(た)った。
シャペコエンセは、ブラジル南部サンタカタリーナ州のシャペコ市(人口約20万)を本拠地とする、ブラジルによくある地方クラブの一つ。1973年のクラブ創設後、財政面など幾度となく存続の危機に見舞われてきた。
シャペコエンセが転機を迎えたのは、カリスマ会長の故パラオーニ氏が就任した2008年。2009年に全国4部リーグへの出場権を獲得(ブラジルのプロリーグは4部制)すると、わずか5年で「サッカー王国」ブラジルの頂点、全国1部へと上り詰めた。ブラジルの全国1部(セリエA)は、コリンチャンスなど世界的にも知名度の高いチームが集う南米随一のサッカー激戦区だ。
ブラジルの全国1部リーグで戦うためには、財政面も含めた非常に高いハードルが待っている。シャペコエンセは、チーム強化の方針を「ユース世代の育成」と「年俸は低いが実力があり、チームに奉仕できる選手を獲得する」ことに集中。今年の全国1部を強豪グレミオに続く11位(全20チーム)で終えた。
さらに、シャペコエンセは、南米第2のタイトルと言われる「コパ・スダメリカ2016」において、「シャペコエンセの奇跡」と呼ばれる快進撃を見せた。同チームは、本来ならば昨年の11月30日、南米タイトルを賭けた決勝戦を相手チームのホーム、コロンビアのメデジン市で行うはずだった。
しかし、11月28日、シャペコエンセの監督、選手らを乗せたチャーター機は、ボリビアの首都ラパスを発(た)ちコロンビアのメデジンへと向かう途中で墜落、乗員乗客77人のうち71人が死亡した。08年からクラブを支え続けてきた会長や役員、監督、主要選手など19人が死亡、チーム関係者で生き残ったのは3人のみだった。
さらに、コロンビアの航空当局による事故後の調査により、事故原因が「燃料不足」だっただけでなく、運航当時の当該機が「過積載」だったことも判明した。
事故がブラジル社会に与えた衝撃は大きかった。事故後、選手らの遺体がブラジルに到着するのを待ってシャペコエンセのホームスタジアムで追悼式が行われたが、愛する家族を失った犠牲者遺族が、強い雨が降る中で遺影を掲げる姿は、多くのブラジル人の涙を誘った。
事故後、あまりに多くの人材を失ったことから、一時はシャペコエンセのクラブ存続も危ぶまれた。しかし、ブラジルの主要クラブが選手の無償レンタルを申し出ただけでなく、連名でシャペコエンセの3年間1部残留をブラジルサッカー連盟に求めるなど、同クラブに対する支援の手が次々と差し伸べられた。「コパ・スダメリカ2016」の決勝の相手だったコロンビアのチームは優勝を譲ってくれた。
シャペコエンセには、ブラジルやアルゼンチンの代表級選手から無償プレーの声が届いていたが、同チームは、あくまでも堅実なチーム作りに徹し、育成ユースからの底上げと他チームからの選手レンタルなどで2017年を戦う予定だ。
シャペコエンセの今年1年のスケジュールは、監督をはじめとするチームの新体制がやっと発足したにもかかわらず過密だ。今月20日にはパルメイラスとの親善試合に挑む。26日には今年初の公式戦をホームスタジアムで行うことになっている。 また、ホームスタジアムでは、25日にブラジル代表とコロンビア代表によるチャリティーマッチも行われることになっており、親善試合やチャリティーマッチの収入は全てシャペコエンセと犠牲者家族の支援に充てられる。
シャペコエンセは、スダメリカ杯の優勝チームとして来日し、「スルガ銀行杯」で浦和レッズと対戦する。
シャペコエンセの復活は、チームを支えるクラブ運営側の熱意、サポーターや地元、サッカー界の支援があってのもの。世代や社会階層を超えてサッカーを愛するブラジルのサッカー文化は、ブラジルの財産と言っても過言ではない。