北の誤発射、専門家懸念

弾道ミサイルの脅威 日米の防空戦略を問う(1)

実戦配備へ新段階に

元護衛艦隊司令官・海将 金田秀昭氏に聞く

 異常ともいえるハイペースで核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮。「中華民族の夢」実現のよりどころを核戦力に求める中国。両国の核の脅威をまともに受ける日本にとって防空戦略の確立は待ったなしだ。ミサイル防衛の専門家で元護衛艦隊司令官の金田秀昭氏に、中朝の核戦力の実態とこれに対する日米の防空戦略、そして、わが国の取るべき防衛施策について聞いた。(聞き手=政治部・小松勝彦)

北朝鮮の核弾道ミサイルの脅威は間近に迫っているとみるか。

金田秀昭氏

 かねだ・ひであき 岡崎研究所理事、日本国際問題研究所客員研究員。昭和43年、防衛大学校卒業(第12期)、海上自衛隊入隊。平成10年、護衛艦隊司令官(海将)。11年に退官後、ハーバード大学アジアセンター上席特別研究員、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授などを歴任。海洋安全保障・ミサイル防衛など安全保障の専門家。著書に、『日本のミサイル防衛』(共著・日本国際問題研究所)、『BMD(弾道ミサイル防衛)が分かる 』(イカロス出版)など多数。

 私が一番心配しているのは、政治的意思、決断が誤りなく伝わる指揮管制システムがきちんとできているかということだ。例えば、米国の大統領は秘密コードで押すことのできる核ミサイル発射ボタンを、どこにいても常時携行している。核五大国は同様と考えて良い。だが、心配なのはインドやパキスタン、イスラエルなど、NPT(核拡散防止条約)に加盟していない国家だ。特にパキスタンは非常に心配だ。北朝鮮はそのパキスタンと技術提携を行っているが、しっかりとした指揮管制システムがあるのかは分からない。皮肉にも、金正恩朝鮮労働党委員長が命令していないのにボタンが押されることがあり得る。また、技術的、システム的なエラーで発射されることもあり得る。このことは世界の専門家が皆、口をそろえて指摘している問題だ。

今回の一連の核・ミサイル実験に北朝鮮のどのような狙いが見えるか。

 今年に入って北朝鮮は21発の弾道ミサイルの実験を行っている。これは非常なハイペースだ。1月に核爆発実験を行ったが、これは原爆から水爆に至る過程のブースト型原爆の実験だったのではないか。2月には大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発のため「テポドン2改」を発射した。従前のペースではそれでいったん落ち着くのだが、その後、3月に金正恩党委員長が「核弾頭の小型化の実現」「早期の核弾頭爆発実験」などを指示したと伝えられた。ハイペースな核・ミサイル実験の実施はこの指示がもとになっていると思う。

北朝鮮は本気で核強国を目指しているとみるか。

320

 北朝鮮は、核武力建設と経済建設を並進する「並進路線」を取っている。一方で、核・ミサイル開発をハイペースで推進しながら、経済の増強も図るという。そんな芸当ができるのかは疑問だが、圧倒的な軍事力を持っている米国に対しても、最小限核抑止力として米本土などの主要都市を攻撃できる数発の核弾道ミサイルを持ったら、朝鮮半島から手を引くだろう、と本気で思っている。

 だから、通常兵力は少し落としてでも、核弾道ミサイルの開発に躍起になっている。国連安保理の非難や制裁決議にも全くひるむことなく、核強国への道をひた走っている。金正恩党委員長はまさしく瀬戸際外交を実践している。

北朝鮮の核弾頭の小型化の進捗(しんちょく)度、弾道ミサイルの精度はどの程度と見るか。

 これまで中距離弾道ミサイル「ムスダン」にしても、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)にしても何発も失敗している。しかし、今回の一定の実験成功の事実から、北朝鮮はより高度な技術の検証のための実験の失敗を繰り返しながらも、技術の進歩を続けていると見るべきだろう。

800

北朝鮮が行った「静止衛星運搬用ロケット」の新型エンジン噴射実験=20日付の労働新聞電子版より(時事)

 北朝鮮は、核弾頭をミサイルに装着する技術に向かって確実にレベルアップしてきているが、それをいつ達成するかの予測は難しい。北朝鮮は、核保有国のパキスタンや核開発を進めるイランなどとの闇取引があると言われている。また、相当の情報が中国から流れている。これらを総合して判断すれば、北朝鮮は間違いなく一つのステージを上げたと言える。ただ、現時点では、ミサイルの弾頭として戦力化したと言うレベルにはないだろう。

日米韓3カ国は、北朝鮮の核開発を抑え込むためにどう対応すべきだろうか。

 やはり米国がどう動くのかが最大のカギだ。中国の王毅外相は最近、韓国外交部の尹炳世(ユンビョンセ)長官との電話会談で、北朝鮮に対する新たな安保理決議の採択に同意したという報道があったが、その一方で、北朝鮮への対処についての自分たちの責任を米国に押し付ける形を取っている。これは非常に汚いやり方だと思う。

 だが、これを逆手にとって、いま中断している6者協議の議長国の役割を、責任逃れをする中国から移譲させ、米国が議長国となって協議を再開すればどうだろう。米国と「差し」で話がしたいという北朝鮮の意向にも沿うもので、協議のテーブルに着くかもしれない。北朝鮮が出て来なくても、日米韓に中露を入れた5者協議という形で北にどう対応するかを話し合うことはできるだろう。