露政権、軍産複合体を強化へ モスクワで対独戦勝71周年記念パレード

 ロシアの首都モスクワ「赤の広場」で9日、旧ソ連の対独戦勝71周年を記念する軍事パレードが大規模に行われた。ウクライナ東部クリミアを併合したことなどでロシアが国際的に孤立する中、プーチン大統領は軍産複合体の強化を打ち出し、国威発揚をさらに進める構えだ。
(モスクワ支局)

政権主導で広がるスターリン評価

 今回の対独戦勝記念軍事パレードには、将校・兵士ら1万人以上、戦車や装甲車など軍用車両130両以上、航空機70機以上が参加した。過去最高の規模だった昨年の70周年記念軍事パレードには及ばないが、その実施には昨年の約半分の3億ルーブル(約5億円)が投じられた。

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9日、モスクワの「赤の広場」で行われた戦勝71年記念軍事パレードで、行進するロシア将兵(時事)

 戦勝記念式典で特に目立ったのは、モスクワだけで70万人以上が参加した「不死の連隊」行進だ。「不死の連隊」とは、独ソ戦で戦った親族の写真を持った人々による行進である。プーチン大統領も参加した。モスクワなどロシアの各都市だけでなく、旧ソ連諸国でも同様な行進が行われ、人々が誇らしげに親族の写真を掲げていた。

 戦勝記念日式典の演説でプーチン大統領は「大祖国戦争(第二次大戦)での勝利はロシア民族の神聖な偉業として永遠に残るだろう。ソ連の兵士たちがナチス・ドイツを粉砕したのだ。ソ連人民こそが、他の国民に自由をもたらしたのだ」と強調し、国民の愛国心をあおった。

 かつての旧ソ連で最も盛大に祝われたのは、11月7日の革命記念日だったが、現在のロシアにとって最も重要な祝日は、この対独戦勝記念日である。

 作家のソルジェニーツィンは「われわれが誇ることができるのは(人類初の宇宙飛行士)ユーリー・ガガーリンと独ソ戦の勝利だけだ」と述べた。旧ソ連が崩壊し共産政権下の矛盾が白日の下にさらされ、かつて世界を二分した超大国としての誇りは崩れ去った。その中で、公称で2000万人という犠牲者を出しモスクワ近郊まで攻め込まれながらも、これを巻き返しベルリンを陥落させた独ソ戦の勝利は、ロシアの多くの人々の心のよりどころとなった。

 だからこそ、独ソ戦の勝利という出来事が神聖化されるのは、ある面では自然な流れということができる。ナチス・ドイツに対する勝利でソ連軍が果たした役割と、2000万人を超える犠牲を出した歴史の重みは、誰も否定できない。だが、この対独戦勝記念日を、ロシア社会を一つにし国威を発揚する場として利用するに従い、当時のソ連の元首であったスターリンを崇拝する動きがさらに広がることになった。

 スターリンはナチス・ドイツと手を結びポーランドを分割した。独ソ戦開始当初の約3カ月間、ナチス・ドイツの攻撃になすすべもなく、ソ連軍兵士200万人と多くの兵器を失った。多くのソ連兵が勇敢に戦ったが、その背景には、共産政権から迫害されていたロシア正教会が、祖国のために国民が一つになるよう呼び掛けたことが、大きな役割を果たしたとも指摘されている。

 しかし、このような不都合な事実は、現在のロシアでは隅に追いやられた。戦勝記念日前後のメディアでは、クレムリンに近い政治学者や文化人らが、スターリンに司令官としての才覚がなければ、ソ連はドイツに勝利することはできなかったと、延々と語り続けている。これらはすべて、政権の意向を反映するものだろう。

 プーチン大統領は戦勝記念式典の演説でロシアの貢献を強調する一方、旧ソ連の同盟国が果たした役割については一切言及しなかった。さすがにこれは同盟国の不満を招く恐れがある。ペスコフ大統領報道官は大統領の演説後、「同盟国が果たした役割については昨年の対独戦勝70周年記念式典で多く語られた。今年は別の部分にアクセントを置いただけの事」と述べ、火消しにあたった。

 戦勝記念日の翌日、プーチン大統領はロシア南部の保養地ソチに向かった。その日から4日間にわたり、プーチン大統領は国防省と軍産複合体の幹部を集めた会議を開催した。非公開で行われたこれら会議のテーマについてペスコフ大統領報道官は「シリアにおける反テロ作戦に投入したロシア空海軍力の結果の検証と、今後の兵器開発についての展望」と指摘した。

 ロシアの専門家らは、欧米などから経済制裁を受けロシアが孤立する中で、軍事力の強化こそが国際社会で確固たる地位を確立するために不可欠、と認識をプーチン政権が強めていると指摘する。ロシアがシリア空爆に踏み切り、シリア問題で主導的な立場を得たことも、その認識を後押しした。

 経済が行き詰まる中で、米国との軍拡競争を進めたソ連は崩壊に至った。その教訓を忘れたのか、経済が悪化する中で国際的な地位を得るため、ロシアは軍事力の強化という選択を行った形だ。

 当然、そのしわ寄せは社会保障などに及び、低迷する経済で生活苦に陥った国民を、さらに窮乏させる結果となりかねない。しかし、現在のロシアでは、これに反対する声は事実上聞こえてこない。独立系世論調査機関レバダ・センターが4月に行った調査では、プーチン大統領支持率は前年同月の76%に対し67%に下落したものの、依然として高い支持率を保っている。