TBSVS「視聴者の会」 「朝日」も加わるも劣勢の局

放送法「違反」に具体的反論せず

 保守系の月刊誌「WiLL」の花田紀凱編集長をはじめとした編集部がそれまでのワック出版からそっくり飛鳥新社に移籍して創刊した「Hanada」を手にして驚いた。赤を基調にした表紙のデザインが「WiLL」とそっくりで、引き継いだ連載も多かったからだ。同じ人間が編集するとなれば、大きな変化は期待できないが、保守系論壇が活性化するためには、どちらかが独自路線に挑戦することが必要だろう。両誌が今後どのような展開を見せるのか、注目したい。

 さて、今回は創刊を祝してというわけではないが、「Hanada」6月号に掲載されている文藝評論家・社団法人日本平和学研究所理事長、小川榮太郎の論考「TBSが犯した『重大犯罪』」を取り上げたい。と言っても、「WiLL」2月号の論考「テレビは新聞社のプロパガンダ機関か」(筆者は米カリフォルニア州弁護士ケント・ギルバート)の続報のようなものである。

 小川は「放送法遵守を求める視聴者の会」(以下、視聴者の会)を務めているが、論考は個人の資格で執筆している。視聴者の会は昨年秋、産経新聞と読売新聞に「私達は、違法な報道を見逃しません」とした意見広告を掲載している。その動きはこの欄でも紹介した。

 「違法な報道」とは何かと言えば、TBSの報道番組「NEWS23」で毎日新聞の岸井成格(しげただ)が昨年9月の放送で、当時論議されていた安保関連法案について「廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」と発言したことだ。これが政治的に公平であることなどを規定した放送法4条の番組編集準則に「明らかに抵触します」と訴えたのだ。

 ケント・ギルバートの論考は、日本のテレビ局が新聞社のプロパガンダ機関のような役割をはたしているのは、新聞社とテレビ局が系列関係にあって強く結びついているからで、この構造的な欠陥を打破して中立公正なテレビ報道を実現するためには一般視聴者が声を上げることが必要だと訴えるものだった。

 また、視聴者の会は昨年9月の8日間にTBSで放送した番組のうち、安保法案が話題に上った全番組を調査。その結果、法案への賛成報道は15%、反対85%で、「政治的不公平」だったことが明らかになった。このため、視聴者の会は4月1日、「TBS社による重大かつ明白な放送法4条違反と思料される件に関する声明」を発表し、8日までに誠意ある回答がなければ「放送事業者とスポンサー企業が協同して果たすべき社会的責任について、広く国民的な注意喚起運動を開始する」などを明らかにした。

 ところが、TBSは6日、「(視聴者の会が)見解の相違を理由に弊社番組のスポンサーに圧力をかけるなどと公言していることは、表現の自由、ひいては民主主義に対する重大な挑戦であり、看過できない行為である」と、同会を非難する声明を発表した。さらに、朝日新聞が13日付で、「まっとうな言論活動か」と、TBS側に付いて同会を批判する社説を掲載した。小川はこれを「誹謗中傷」だと一蹴する。

 小川の論考は、1日に発表した声明を紹介した上で、TBSはデータに一切触れずに報道の正当性だけを主張するという「致命的な対応」で、「データの正しさを証明してしまったことになる」と再反論。さらには、スポンサーに圧力をかけると公言していると「嘘」を並べているが、「万一、我々が執拗(しつよう)な圧力行動に出れば威力業務妨害で訴えればいいだけの話」で、「もしTBSに自信があれば、堂々と我々の挑戦を受けて立つべきだったろう」と挑発している。

 左翼的で「権力の監視」の役割を自任するテレビ、新聞が多いわが国ではマスコミが「第4権力」と呼ばれるほど、強大な影響力を持つに至っている。その半面、マスコミ監視の機能が脆弱なために、偏向報道がまかり通っているのが実情だ。それでも新聞は「言論の自由」という原則で最大限守られるが、公共の電波を使うテレビはそうはいかない。

 視聴者の会の呼びかけ人には、小川やケント・ギルバートのほかに、作曲家のすぎやまこういち、上智大学名誉教授の渡部昇一、拓殖大学学事顧問の渡辺利夫などが加わっている。また、賛同者にも各界の第一線で活躍する有識者が名を連ねている。小川はテレビが「政治運動体と化している」と危機感を募らせるも、政府が放送内容に介入することには「断固反対」するとしている。その姿勢は当然であり、そうなると、テレビ番組の質向上は第一に、視聴者の成熟度にかかるのである。

 月刊誌上で、テレビの偏向報道に立ち向かう動きが出てきたことは、わが国の報道機関の質向上に資するはずである。視聴者の会の活動に期待しつつ、TBSの今後の対応を注視していきたい。

 編集委員 森田 清策