「慰安婦」合意で慎みを 日韓の安保協力にも不可欠

2016 世界はどう動く-識者に聞く(17)

韓国世宗研究所所長 陳昌洙氏(下)

「慰安婦」合意を弾みに今年は日韓関係が改善に向かうだろうか。

陳昌洙氏

 いくつも越えなければならない課題がある。日本ではまず来月22日に「竹島の日」の行事があり、日本政府高官が参加するか否かで韓国の反応が変わってくる。3月の教科書検定、4月の靖国神社の春の例大祭なども毎年、韓国を刺激してきたが、これらは直接は「慰安婦」合意とは無関係であったとしても韓国では「慰安婦」合意後の日本の姿勢として関連付けて見てしまう傾向がある。教科書にしても「なぜ慰安婦問題を載せないのか」と言い出す可能性もある。

 国内の世論や政治を抑え込むのは難しい。日本は新たに設立する財団に拠出する約10億円について「賠償ではない」と国内向けにはっきり言うよりも、「責任を感じながら行うもの」と話してもらうことが韓国としては必要になってくる。韓国政府も少女像撤去の約束はしていないと断言しては駄目だ。民間は致し方ないとしても、両国政府はできるだけ相手の反対勢力に口実を与えるような言動は慎むべきだろう。

今年の日韓関係を展望すると。

 2つのシナリオが考えられる。第一に、歴史認識などの懸案をあまり政治争点化させずにうまく管理しながら関係改善の流れを作っていくこと。そのためには日韓双方とも努力することが不可欠だ。政府関係者が早く会って再び歴史認識が争点化しないように日本側は「謝罪」「責任」の真意を問われるような妄言を慎み、韓国側も一貫性をもって「最終的、不可逆的」解決にすることが求められる。

 第二に、「慰安婦」合意に対する不満を野党や市民団体、マスコミが政権批判の材料にし、合意履行が遅れて日韓関係改善の流れを作り出しにくくなること。そこへ日本側から妄言や歴史認識をめぐる刺激的な言動などが重なれば、韓国は政権批判がエスカレートしてコントロール不能になるレームダック(死に体)化に陥る可能性もある。

先日の北朝鮮による「水爆実験」への対応など安全保障面で日韓協力と日米韓3カ国の連携強化は不可欠だ。

 韓国としても北朝鮮に制裁を加えるには日本の協力が必要になるが、結局、中国に刺激を与えることを躊躇(ちゅうちょ)している。今の韓国は米中2国だけを見ている人も少なくない。実際は日本との軍事面での協力も不可欠なのに。韓国は今回、「水爆」情報で遅れを取ったという見方もある。

 そういう意味で日韓間で、自衛隊や韓国軍が食料や燃料を融通しあう物品役務相互提供協定(ACSA)や2012年に締結直前で韓国側がキャンセルした軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が必要だ。これを進めるためにも「慰安婦」合意が本当の問題解決につながるか否かがカギを握ってくる。

今年は日本で日中韓首脳会談などもあり朴槿恵大統領が訪日する見通しだ。

 とにかく「慰安婦」合意で日韓に認識のズレがあるので、韓国としては再確認したいという気持ちがあるだろう。

(聞き手=ソウル・上田勇実)