不倫の風俗図


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 女性は男性より瞬発力が一歩勝っている。こんな笑い話がある。夫と妻が別々に浮気して、同じホテルで出くわした。びっくり仰天した夫は「あっ、おまえ!」と言ったきり、言葉が出なかった。すると妻が大声で叫んだ。「金刑事! あいつを早く捕まえて」。いずれにせよ、こんな時の女性の瞬発力は認めるべきだ。

 こんな笑い話も今は昔の話となったようだ。姦通(かんつう)罪が廃止されて6カ月がたち、不倫の風俗図が大きく変わったためだ。浮気を見つけられても、居直ってくるのが当たり前になった。妻が興信所の探偵と一緒に現れると、「おまえ、私を人に探らせたのか」と食い掛かる。私生活の侵害として告訴するぞという反撃だ。

 被害を受けた配偶者たちの対応も一緒に進化する。姦通現場を押さえる作戦が始まると、兄弟や友人たちを全部連れていく。一種の人海戦術で、大勢で押し切る戦略だ。不倫男女のしっぽをつかむ手法もまた、日増しに大胆になっている。自動で通話を録音するスパイアプリを密(ひそ)かに設置したり、盗聴装置で位置を追跡する。配偶者の跡を追う“専用タクシー運転手”を雇ったりもする。不倫をめぐって追う者と追われる者のかくれんぼを見るような感じだ。

 姦通はギリシャ・ローマ神話に出てくるほど根が深い。今日、男女が愛を告白する時、バラの花を贈るのも実は姦通に根っこがある。“愛の女神”ヴィーナスは元来、浮気な性格だった。夫である“火の神”ウルカヌスに隠れてよく浮気した。彼女の息子キューピッドが母の不貞行為を漏らさないように“沈黙の神”ハルポクラテスに頼むほどだった。実際、キューピッドも“戦争の神”マルスとの不倫で生まれた子供だった。沈黙の神が頼みを聞いてくれると、キューピッドは感謝の印として彼にバラを贈ったという。

 バラはその後、西欧社会で“秘密を守ってくれる花”になった。ローマ時代、公式晩餐(ばんさん)では食卓の上にバラをつり下げていた。バラの下で話した内容は秘密に付さなければならないということだ。「秘密に」という意味のラテン語“sub rosa”(バラの下で)もここに由来する。

 愛の花バラが秘密を隠すという“sub rosa”に堕(お)ちてしまった現実に心が痛む。配偶者の不倫は数千本のバラでも隠し通すことはできない。本当の愛は「バラの下で」でなく、「バラの上で」堂々と表されなければならない。バラは「秘密」ではなく「愛」を守る花だ。

(8月24日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。