「新型うつ病」のウソ
病気隠れ蓑に権利貪る/診断書出す医師の責任大
「就活」や「婚活」という略語が頻繁に使われていると思っていたら、最近「卵活」という新語が広がっていることを知った。女性が将来の出産に備え、若いうちに自分の元気な卵子を採取し、凍結保存することを意味する言葉だ。
その「卵子の凍結」が若い女性の間で増えているという。女性の「社会進出」が進んだ影響で、晩婚・晩産傾向が強まり、30代後半、あるいは40代になってから出産しようと目論む女性がいるが、その年齢ではすでに妊娠は難しい。その結果として、不妊治療が増えているのだが、それでも治療が成功する確率は低いことが知られるようになった。
そこには、女性の生物学的な宿命がある。「卵子の老化」だ。そこで若いうちに、受精しやすい卵子を凍結保存し、将来の人工授精による妊娠・出産に備えておこうというのである。
生殖医療技術の進歩と、とどまるところを知らない人間の欲望に驚愕してしまうが、ことはおいしい目玉焼きをつくるために、新鮮なたまごを冷蔵庫に入れておくのとはわけが違う。卵子の凍結のように、自然の摂理に逆らう生殖医療は、結婚・家族観を崩して、人口動態に致命的な影響を与えてしまう危険がある。すでに「結婚適齢期」という言葉が死語となってしまったように、卵子の凍結が一般化すれば、「生殖適齢期」さえも無視される風潮が広がることだって考えられるのだ。
倫理的な課題はあまりにも深刻だが、女性の社会進出をけしかけてきたリベラル・左派のメディアの中には、性懲りもなく「女性の出産の選択肢が増えた」と、卵活を奨励するものがある。そんな中で、生物学的な宿命に従って、女性に「若いうちに結婚・出産しなさい」と、ことの是非をはっきりさせる保守派の言論人が存在してこそ、論壇はその責任を果たせるというものだ。
月刊「正論」11月号は産経新聞社会部記者、道丸摩耶の「『卵子の老化』を突きつけられた女性たちのいま」と、同論説委員河合雅司の「『卵活』に潜む少子化助長と家族破壊の毒」を掲載した。
前者は、NHKスペシャル「産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~」が放送された昨年6月以来、女性は35歳を過ぎると、たとえ不妊治療を行ったとしても妊娠は難しくなるという事実が周知されるようになって、卵子の凍結が注目されるようになった現状をリポートしたものだ。一読に値するのは後者である。
いくら医療技術が進歩しても「自然の摂理に逆らうことには、やはり無理がある」として、凍結保存された卵子の取り間違い、低い妊娠成功率などのリスクを伝えないで、「女性を『卵活』へと煽る動きには、何らかの意図を感じざるを得ない。日本人の結婚観や家族観を壊す狙いでもあるのだろうか」と疑問を呈す。
また、平成22年の体外受精実施数が約24万2千件で、今や新生児の「三十人に一人」が体外受精で生まれている事実を挙げて、わが国が「不妊大国」化してしまった現状は、結婚や出産するかしないかもすべて「個人の自由」と叫んできたフェミニズムや自由偏重の風潮によって、「長い時間をかけて人類が学んだ『出産適齢期』という知恵の伝承が断ち切られてしまったために起きている」と断じている。
便利さの代償として人間のエゴイズムや欲望を増長させる負の面を持つのが科学技術である。その典型は生殖医療だ。卵子の凍結保存に規制がない現状では、結婚から出産のタイミングまで、すべて自分の意のままにできると勘違いした女性たちがどんどん卵活を行うだろう。その結果として生じる未婚者の増加や少子化によって、社会が混乱の淵に落ちるのは目に見えている。
生物学的に決まっている出産適齢期は、人間の意志ではいかんともし難いものだ。そこから逆算して伝承されてきた「結婚適齢期」という言葉がすでに死語となってしまったことは、人間のエゴや欲望の肥大化を象徴している。医療技術が発達し、結婚や出産に関わる選択の自由が広がっているように見えても、実際の選択肢は限られていることに、日本人は早く気づくべきなのである。(敬称略)
編集委員 森田 清策