「卵子の凍結」の波紋
崩れる結婚・家族観/フェミニズムが欲望煽る
「うつ病100万人時代」という言葉があるように、うつ病患者が増えているそうだ。精神科や心療内科の医療施設も多くなっている。患者が増えたから、クリニックや病院が増えたのか。それとも病院が増えたので、患者も増えたのか。診断基準に曖昧さが漂う精神科医療だけに、患者の増加には、何か裏があるようにもみえる。
今年春、私がインタビューした精神科医は、最近の精神医療では「仕事が苦痛だ」と訴える人も「うつ病」と診断するようになっている、と苦言を呈した。最近、マスコミで話題になっている「新型うつ病」のことだ。医師は処方箋を出して儲けるために、病名をつけたい。だから、「うつ病」が増えているとの分析もあながち的外れではないのだろう、と思った。
精神科医で昭和大学医学部精神医学講座教授の岩波明の論考「『新型うつ』の大ウソがまかり通る理由」(「新潮45」11月号)を一読して、「やっぱりそうか」と納得するとともに、衝撃的でもあった。
岩波によると、新型うつ病という病名は「タレント精神科医の香山リカ氏の造語」なのだという。「精神科医」と言わずに「タレント精神科医」と表現するところに、彼女に対する岩波の評価が表れている。
さて、新型うつ病だが、明確な定義はなく、「プライベートの生活は楽しんでいるが、仕事というと意欲がなくなり、長く休職を続けるような一群」を呼ぶそうだ。岩波に言わせれば、新型うつ病という「病気」は存在せず、まったくの「ウソ」だから、「安易に休職などの診断書を出している医師の責任も大きい」。
すべての医師がそうではないのだろうが、冒頭で指摘したように、本物の病気でなくても儲ければいいという不埒な動機で、安易に診断書を書く医師もいるのは間違いなさそうだ。
この論考で、さらに驚いたのは、新型うつになりたがる“患者”のえげつなさであり、それを容認するマスコミや社会の甘やかしだ。それを岩波は「日本社会は、病気を隠れ蓑にして権利を貪る怠け者に市民権を与えている」と嘆いている。
具体的な例として、うつ病で障害年金を得ようとするケースを挙げている。医師に診断書を書かせるため、社会保険労務士(社労士)を同伴する「自称うつ病」の患者もいる。
障害年金の支給額は1年で100万円になる場合もあり、最大で5年遡って請求ができるから、うまくうつ病になれれば、一挙に500万円以上も手にすることができるのだ。そして、その成功報酬として社労士には、手にした額の2割から3割が渡されるのだという。
医療費支出が財政を逼迫させているのに、“偽うつ病患者”に使われる税金は膨大なものになっているはず。患者だけでなく、偽うつだと知っていて診断書を書く医師や、それを要求する社労士の責任は当然重い。同時に、新型うつという言葉を流布させて、偽患者を増やしたマスコミの責任も問われなければならないだろう。(敬称略)
編集委員 森田 清策