ナポレオンの帽子
韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」
有名人として生きるのは、必ずしも楽しく気楽なことではない。世の中の過度な関心にさいなまれるのが常だからだ。時には死んだ後も苦しめられる。ヨーロッパの風雲児、ナポレオン・ボナパルト(1769~1821年)がいい例だ。死後に大切な部分を切断される辱めを受けた。葬式を執り行う神父が切り取ったというのが定説だ。
有名人と関係を持つことは何であれ価値が上がる傾向がある。米国のジョン・F・ケネディ元大統領のゴルフクラブは1996年の競売で70万㌦以上で売れた。金銀宝石で作られているわけではないのに…。中世ヨーロッパでもイエスがクギ打たれた十字架の一部といわれる物品が飛ぶように売れたという。ナポレオンの場合は、墓の周りの木々まで災難に遭った。次から次へと記念品として引き抜かれてしまったのだ。
なぜこうなるのか。米エール大学の心理学者ポール・ブルーム教授は、人々が物品の歴史を考慮して価値を評価するためだと説明する。“歴史が価値の本質”だというわけだ。本物と複製品の値段の差が大きい理由、偽造品が氾濫する理由もここにある。人々は物品ではなく、その来歴と“体臭”を買うのだ。
ナポレオンを象徴する二角帽が最近、パリ郊外フォンテーヌブローの競売で約26億ウォン(約2億7500万円)で落札された。帽子の競売としては史上最高価格だという。やり過ぎの感が拭えない。競売所の予想価格を4倍近く上回ったというし、同じデザインのナポレオンの帽子が1992年のスイス・ジュネーブでの競売で“わずか”9500㌦で落札されたことと比べてみても…。
巨額を投入して帽子を手に入れたのは国内の食品加工メーカー、ハリムグループのキム・ホングク会長だ。いったいどんな用途で買ったのか。ハリムは報道資料で「人々が見られる場所に置いて(ナポレオンの)挑戦と開拓精神を共有する方法を考えている」という。ハリムが現在建設中の新社屋が完成すれば、そこに置くつもりのようだ。
ナポレオンの没落を最終的に決定付けたワーテルローの戦いで、反ナポレオン連合軍は乱戦中に彼の剣と帽子を発見する。オーストリアの政客メッテルニヒは報告に接し、「我々はナポレオンの帽子を手に入れた」と言いながら「近くついに彼を捕えることになるだろうと期待する」と述べた。ハリムとしては、その後段の発言に代えて、「近くついに新社屋の中に帽子を置くことになるだろうと期待する」というわけだ。興ざめの感が拭えない。26億ウォンという高費用を考えれば、いっそう…。
(11月18日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。