モディ新印首相に期待する

ペマ・ギャルポ桐蔭横浜大学法学部教授 ペマ・ギャルポ

強い日印関係の構築を

アジアでグローバルな連携

 世界最大の民主主義国家インドの長い選挙期間(7週間)を経て、5月16日に結果が発表された。予想を上回る議席を確保したインド人民党が337議席を獲得し、543議席の過半数をはるかに上回る勢いを見せた。今回の選挙の特色はグジャラート州首相、ナレンドラ・モディ氏への期待が大きな要因になったと思われる。

 今回の選挙の結果、喜ぶべきことは30年ぶりに単独で政権を運営できる安定した与党と、強いリーダーシップを発揮できる首相が出現したことである。対日関係においてはどの政党が政権を取っても、日本を重視するという基本的な政策は変わらないものの、モディ政権になることで、さらに深化することは間違いない。モディ首相は安倍首相を高く評価していると言われており、最初の訪問先の外国として日本が選ばれる可能性は高いと聞く。日本政府も既に歓迎する意思を伝えている。

 モディ氏の人民党の支持母体であるRSS(民族奉仕団)も内閣人事や党の人事に関しては一切干渉しないと宣言しているためモディ氏は自前の強力な内閣を組閣し、党内の組織もさらに強化していくと見られている。モディ氏に対して国民は経済面において少し鈍感になった発展を再建し、外交面においては、前政権よりも強力な姿勢を示されることを期待している。

 パキスタンのシャリフ首相は早速パキスタン訪問を提案している。「国が強く見られれば関係者も変わる。関係者が変われば隣国も変わり、環境も変わる」とテレビのインタビューで語っている。つまり経済問題などについては柔軟な姿勢を見せても、領土問題など国家の基本に関わる問題に対しては強硬な姿勢が取られると見るべきである。

 インド人民党はアドバニ元副首相、ジャスワント・シン元外相など経験豊かな長老たちが存在する一方、地方の州首相などで政治力や行政能力を発揮している人材も多い。モディ氏は選挙運動期間中、中国の「拡張主義的精神」を批判するような発言があっても、それは選挙用の表現であると中国政府は問題を大きくしない姿勢を見せている。中国はかなり以前からモディ州首相のグジャラート州へ積極的に投資するなど個人的にも関係を作ることに努力し、経済面においては双方が良好な関係を築いてきたが、国家の基本に関わる問題や、アジアの平和と安定に関してモディ氏を軽視できないことは、中国側も十分に知っている。

 アメリカのアフガニスタンからの撤退後、この地域の覇権を巡ってはモディ氏の人民党は安易に中国に妥協はしないはずである。彼は過去に4回訪中しているが、あくまでも政経分離の立場で、経済に関しては極めて合理主義的なスタンスを取りながら、政治と外交面においては基本的スタンスを崩さないというイメージを一般国民及び国際社会に与えている。

 マンモハン・シン前首相は非常に言葉も姿勢も謙虚であったが、芯は勿論強い人物であった。インドの今日の経済発展に大きな貢献をし、インドのイメージを好転させた功績は大きいが、任期末期になると汚職対策などを打ち出せなかった弱い首相としてのイメージがあったため、モディ首相に対しては国民もダイナミックなリーダーシップを期待している。インドが置かれる国際環境や地政学的位置づけを考えると、私も同感である。

 今回の選挙の結果、国民は明確にモディ氏に対し必要十分な権限を与えた。私は精神性の高いモディ氏が傲慢(ごうまん)になることはないと思うが、周囲や関係者が国民の信託に対し傲慢になることなく忠実に国民の幸福と国家の利益のため、次の5年間勇気と誇りを持って大躍進することを期待している。また、モディ氏は有能な官僚を自らの手足のように使いこなす手腕を地方で発揮したのと同様、国政にもその力を発揮するであろう。

 モディ首相は日本をある部分において模範とし、特に日本再建期の教育制度や日本の道徳教育を参考にしたいという意思を表明している。彼は州首相として2度日本を訪問し、どんなに多忙でも日本からの使節団などに時間を割くなど積極的姿勢を見せてきた。

 安倍首相とモディ氏は非常に波長が合っているように感じる。二人ともグローバルな視点でアジアやそれぞれの国のあるべき姿を探求し、それぞれが自国の歴史、伝統、文化などに対し、誇りを持っている。昨今のベトナムやフィリピンでの中国の暴走ぶりを見ていても、それに対して牽制(けんせい)、抑止するためにも日印のさらなる強い連携が欠かせなくなってきている。両国の有能な官僚達も強いリーダーシップの下、それぞれの国における経済交流などを通じて障害物を撤去し、経済のみならず観光、文化交流、留学生の受け入れ増員などに努力し、メディアも民間の交流を促進するように健全な役割を果たして欲しい。

 インド独立以来今日まで、日本とは温かい友好関係を保ってきたが、日印両国において安定した国会と強いリーダーシップが出現したことで、さらに熱い関係に発展するよう期待したい。