「セウォル号」沈没事故のトラウマ
韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」
「セウォル号」沈没事故が発生した去る16日、深夜に帰宅すると妻の目がうっすらと赤く充血していた。退社後、テレビニュースを見ながら涙を流し続けていたという。「どうしてこんなことが起こり得るのか」「生徒たちを救助できるのか」としきりに聞いてきた。仕事がさっぱり手につかないと哀訴したりもした。安山市の檀園高校の生徒たちと同じ年頃の息子を育てる母親として他人事(ひとごと)とは思えなかったようだ。時間がたつにつれて妻の感情は空(むな)しさと罪責感に変わった。「大人たちの過失で子供たちがあんなになってしまった」と。
大韓民国が精神的な恐慌状態に陥った。増加する一方の死亡者数にニュースや新聞を見ることが怖くなる人たちが少なくない。突然、涙が溢(あふ)れ落ちてどうしようもないという人もいる。国民全てが何もしてあげられないという無力感と自己恥辱感に苦しめられているのだ。
「心的外傷後ストレス障害(PTSD、トラウマ)」は、死を招くほどの衝撃的な事故を経験した後に体験する激しい苦痛を指す医学用語だ。反復的に事故を思い出したり、慢性的な憂鬱・不安症状と認知症を伴ったりもする。日常生活が難しくなる場合もある。今回の旅客船沈没事故では、事故の当事者や家族だけでなく国民全体が少なからずトラウマを持つようになった。
しかし、セウォル号沈没事故の死者・行方不明者の家族たちの苦痛とは比べようがない。被害者の家族たちがなめている精神的な苦痛のことを考えると、胸が張り裂けそうだ。救助された生徒や乗客たちも同じだろう。檀園高校の教頭は気の毒なことに自ら命を絶った。ある乗客は「足元でガラス窓を叩(たた)きながら、助けてとわめいていた男子生徒の顔が目の前にちらついて気が狂いそうだ」と今にも泣きそうな顔で話した。
専門家たちは忠告する。「今度の惨事で苦痛を受ける人たちが心理的な不安を克服できるよう、周辺で多くの支援を与えなければならない」と。救助された檀園高校の生徒たちは今も現状を受け入れられず、ぼうぜんとした状態で不安と憂鬱感を訴えている。自分たちだけが生き残ったという罪責感を持たずに不可抗力的な状況だったことを受け入れるようにすることが重要だという。政府はもちろん、社会の各界各層の持続的な関心とケアが何よりも必要な時だ。
(4月21日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです