配偶者控除見直しの弊害に目を向けよ
安倍政権は、専業主婦がいる世帯の所得税を軽減する「配偶者控除」の見直しについて検討している。
少子高齢化で就労人口が減少する中、経済成長を持続させるため女性の就労を促進するのが狙いだが、見直しによる弊害に目を向ける必要がある。
「家族」が単位の税制
現行制度はサラリーマンの妻がパートタイムなどで働いている場合でも、妻の年収が103万円以下であれば控除を受けられる。夫の給与のうち所得税で年38万円、住民税で年33万円が課税対象から外れる仕組みになっている。
このため、労働時間を抑えて妻の年収を調整する例が多く、「103万円の壁」と呼ばれている。政府の産業競争力会議の雇用・人材分科会は先月、配偶者控除について「女性の就労に抑制的に働き、弊害が大きい」として廃止・縮小を求める提言をまとめた。
しかし配偶者控除の適用者数は約1400万人に上り、減税額は6000億円に達する。廃止された場合、年収300万円の家庭で5万2400円、年収500万円で7万1000円、年収700万円で10万4500円の増税となる。
今月から消費税率が8%に引き上げられ、来年10月には10%となる予定だ。こうした中、見直しが経済成長に結び付くのか疑わしい。
配偶者控除の廃止は、かねて過激なフェミニストも唱えてきたものだ。見直しについてはこれまでも論じられてきたが、過去の政府税制調査会では「(政策誘導的に)専業主婦を淘汰してもらうような方向性が必要」などと発言した委員もいた。見直しによって、こうした声が強まることが懸念される。
内閣府が一昨年12月に発表した世論調査結果によると「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方について、賛成は51・6%、反対は45・1%だった。こうした国民の意識にも注意を払う必要があるのではないか。
政府は「待機児童ゼロ」を目指し、保育所の整備などを進めている。しかし、本当は専業主婦でいたいのに働かざるを得ない女性もいる。
配偶者控除の見直しは、税制を「家族」単位から「個人」単位に改めることでもある。自民党は一昨年4月に発表した憲法改正草案で「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」としている。
家族を尊いものと考えるのであれば、配偶者控除を維持すべきだ。
慎重に検討すべきだ
総務省がこのほど発表した人口推計によると、15~64歳の現役世代である生産年齢人口は2013年10月1日現在、7901万人で32年ぶりに8000万人を割り込んだ。一方、65歳以上の高齢者の割合は25・1%で過去最高となった。
少子化の解決には、仕事と育児を両立させる政策以上に結婚や家庭の素晴らしさを若者に伝えていくことが求められよう。その意味でも、配偶者控除の見直しは慎重な検討が必要だ。
(4月22日付社説)