巨大地震対策で家族や地域の「自助」も促せ
南海トラフ巨大地震や首都直下地震に関する国全体の防災・減災方針が出そろった。防災対策推進地域や緊急対策区域に指定された自治体は約1000市区町村に上り、今後、地域の防災計画を策定することになる。
こうした計画は家族や地域の「自助」や「共助」に裏付けられなければ、机上の空論に終わりかねない。身近な防災対策にも関心を高めたい。
死者8割減を目指す
被害想定では、南海トラフ巨大地震で死者が最大32万人、倒壊・焼失家屋が238万棟、首都直下地震で2万3000人、61万棟に達し、経済損失も甚大だ。それだけに防災対策の成否が「国の存亡」を決する。
このため昨年末に特別措置法が施行され、それに基づき政府の中央防災会議はこのほど、対策推進基本計画を定めた。南海トラフでは死者8割減、倒壊家屋5割減を目指し、首都直下では木造住宅密集地域の延焼防止策や首都機能の維持策などを進める。対策推進地域などに指定された自治体は、これに従い具体的な防災計画を策定する。
いつ地震が発生しても不思議ではない。安倍晋三首相は「政府一丸となってスピード感を持って対策を進めていく」と強調しているが、自治体も計画作りを急がねばならない。
もとより国や自治体の防災・減災策だけでは不十分だ。基本計画とともに決まった「大規模地震防災・減災対策大綱」は住民に対して「自助」を促し、1週間程度分の食料や水の備蓄、住居の耐震化や家具の固定などを要請している。被害を最小限にとどめるには家族や地域の「自助」「共助」は欠かせない。
阪神・淡路大震災では約16万4000人が倒壊した家屋に閉じ込められ、8割近くは自力で脱出したが、約3万5000人が生き埋めになった。このうち2万7000人は家族や近隣の人々に助け出された。6000人以上が犠牲になったが、その多くは家屋倒壊や家具転倒によって圧死した。
このことは住居の耐震化や家具の転倒防止策といった、身近な防災対策が被害最小化の決め手になることを示している。ところが、家屋の耐震化率が8割の壁を越えられない自治体が少なくない。名古屋市では家具の転倒対策実施率が5割強にとどまっている。
阪神大地震では町内会活動が活発な地域で生存率が高かったという報告もある。住民の交流が盛んなので、誰が閉じ込められているかがすぐに分かり、素早く救出できたからだ。東日本大震災でも近隣の声掛けや協力などで津波から逃れた人が少なからずいた。
巨大地震では消防車が駆けつけられないケースが続出するため、自主防災組織の延焼防止能力が重要になる。それで国や自治体は地域の消防団や防災組織の再生を目指しているが、高齢化などがネックとなり、組織作りが遅々として進まない地域が各地で見られる。
十分な防災計画のため
家族と地域の「自助」と「共助」を基盤としなければ、国や自治体の防災計画は不十分になる。このことを改めて自覚しておきたい。
(4月21日付社説)