ブラジル COP26で「野心的政策」提案
28年までにアマゾン違法伐採ゼロ
英国のグラスゴーで、今月12日まで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されている。世界各地で洪水や旱魃(かんばつ)、熱波などの異常気象が相次ぐ中で開催された今回の会議で、ブラジルは「野心的」と自賛する環境対策を打ち出した。ただ、環境団体やメディアからは「数字のトリック」などと批判の声も上がっており、現政権下で環境対策がどこまで実行されるかは未知数だ。(サンパウロ・綾村 悟)
数字のトリックとの批判も
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今年8月、「温暖化の原因は人類」「前例のない気候変動が起こる」との報告書を公表、グテレス国連事務総長は「人類への赤信号が灯(とも)っている」と警告した。
COP26は、地球温暖化の加速を止めるターニングポイントにもなり得る会議だが、温室効果ガス5大排出国の中国とロシアの首脳は、対面会議に参加しなかった。
こうした中、世界最大のアマゾン熱帯雨林を抱えるブラジルが、これまでにない温室効果ガスの削減目標と森林保護政策を掲げたことが話題となった。
ボルソナロ大統領に代わり、ブラジル代表団の顔として参加したレイテ環境相は1日、COP26参加各国に向けて、温室効果ガスを2030年までに05年比で50%削減するとの自主削減目標(NDC)を発表した。ブラジル政府が昨年12月に発表したNDCは、05年比で43%削減だった。
レイテ氏はまた、ブラジルが50年までに温室効果ガス排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと言明した。
中国とロシアは、60年までのカーボンニュートラル実現を表明、ブラジルは欧米や日本などの先進各国に並ぶスケジュールだ。「脱炭素社会」の動きは加速しており、世界の潮流に合わせた数字だ。
さらに、レイテ氏が強調したのは、アマゾン熱帯雨林の保護対策だ。ボルソナロ氏は今年4月、バイデン米大統領が主催した気候変動サミットにおいて、「30年までにアマゾン熱帯雨林の違法伐採をゼロにする」と表明して世界を驚かせた。レイテ氏は、この目標を2年早めて「28年までに違法伐採ゼロを実現する」と約束した。
ブラジル政府が打ち出した「野心的な環境政策」(レイテ氏)は、COP26の参加各国によって歓迎された。米国で気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使が称賛したほどだ。
ただ、温室効果ガスの削減目標に関しては、ブラジルメディアや環境保護団体から、「削減基準としている05年度の排出量自体が現政府によって上方修正されている」「昨年発表した目標値と実際には変わらない数字のトリック」などの批判も出ている。
一方、開発派として知られるボルソナロ氏は、アマゾン熱帯雨林の保護に消極的だとして欧米諸国や環境団体から批判を受けてきた。ボルソナロ政権下で熱帯雨林の消失速度が加速しており、ブラジル国立宇宙研究所(INPE)は、19年8月から20年7月のアマゾン熱帯雨林消失量が過去12年で最悪の1万88平方㌔㍍に達したと報告した。1年間で東京都が四つ以上収まる森林が消失したことになる。
大胆な環境政策を打ち出したブラジルだが、会議の後半では、温室効果ガス削減量の国際取引に関して、パリ協定の前身となった京都議定書の下で認証されていた削減分の「クレジット」を、パリ協定の下で利用できるように主張している。温室ガスの削減を着実に進めたいとする先進各国とは対立する立場だ。
実際、ボルソナロ氏の支持母体には農業団体などがあり、レイテ環境相が提案した環境政策をどこまで実行できるかは未知数だ。ただ、アマゾン熱帯雨林の保護や気候変動の抑制は、時間との闘いであることも事実だ。