米バージニア州知事選が大接戦
教育争点に共和が支持拡大
教委のトランスジェンダー方針に親が反発
来年の中間選挙に影響も
来年11月の中間選挙の前哨戦となる米南部バージニア州知事選(11月2日投開票)が予想外の接戦となっている。同州は近年、民主党色を強めているが、公立学校のトランスジェンダー方針などをめぐり生徒の親らによる抗議運動が高まる中、共和党候補が支持を伸ばしており、来年の中間選挙への影響も予想される。
(ワシントン・山崎洋介)
「両親が子供の教育に関して決定する基本的な権利を持つ。これがバージニア州法だ」
バージニア州知事選の共和党候補であるグレン・ヤンキン氏(54)は、首都ワシントン郊外の同州北部ラウドン郡で8日に行われたキリスト教保守派の集会でこう強調し、聴衆から熱烈な拍手を浴びた。同氏は、約15分間の演説で減税や治安改善も訴えたが、大部分を教育問題に割いた。
同州はかつて、共和党の地盤だったが、2008年にオバマ氏が勝利して以降、民主党色を強めている。20年大統領選で、バイデン大統領は54%の得票率で当時のトランプ大統領に10ポイント差をつけて勝利。前回の州知事選でも、民主党候補が8ポイント差で勝利している。
しかし、14年から4年間、同州知事を務めたテリー・マコーリフ氏(64)と政治経験のない投資会社カーライルの元共同最高経営責任者であるヤンキン氏の対決となった今回の知事選は接戦となっている。
モンマス大が20日に発表した世論調査によると、両氏は支持率46%で並び、先月の調査で5ポイントあった差がなくなった。
ヤンキン氏が善戦している要因には、バイデン氏の支持率低下の影響もあるが、教育問題が主要な争点となっていることが大きい。その背景に、同州の公立学校におけるトランスジェンダー方針や「批判的人種理論」と呼ばれる左派色の強い人種差別教育などに対し、生徒の親らによる教育委員会への反発が各地で巻き起こっていることがある。
特に対立が激化しているのが高所得者が多く住むラウドン郡で、メディアから「文化戦争の戦場」とも形容されるなど、注目を集めている。6月に開催された教育委員会の方針に対するパブリックコメントの場には数百人の住民が詰め掛け、「われわれ親は立ち上がる」「教育は洗脳ではない」と書かれたプラカードを掲げて国歌を歌うなどして、生徒が性自認に基づいてトイレの使用を認める方針などに対して抗議の声を上げた。
特にマコーリフ氏にとって痛手となったのは、9月28日の討論会での失言だ。同氏が知事時代に「性的に露骨」な教材について学校側が両親に通知することを求める法案に拒否権を発動したことについてヤンキン氏から追及を受けた際、「親が学校に対し何を教えるべきか言うべきでない」と言い切ったのだ。
支持基盤である教員組合への配慮をうかがわせるこの発言は、ヤンキン氏に格好の攻撃材料を提供することになった。同氏は、その翌日に討論会の場面を取り上げた広告を発表するなど、その後の追い上げにつながった。
モンマス大の分析によると、ヤンキン氏の支持が伸びているのは、ここ1カ月間で「有権者の間で争点の優先順位に変化」があったからだ。「教育と学校」が1番目か2番目に重要だと回答した人は41%で、前回の31%から上昇。一方、マコーリフ氏は、勝利のカギを握る「郊外の女性、特に州北部」での支持が伸び悩んでいるという。
一方、同州の死守を図る民主党は、バイデン氏が26日に応援演説を行ったほか、オバマ元大統領やハリス副大統領が次々と現地入りするなど、全面的に支援している。マコーリフ氏は「トランプ氏がヤンキン氏を支持している」と強調するなど、有権者の反トランプ感情に訴える戦術を展開している。
高学歴層が多く住む都市郊外では、トランプ政権時代に有権者の共和党離れが進んだが、共和党側がこうした票をどこまで取り戻せるかが焦点だ。教委の方針に対する反発の動きは、全米各地に広がっており、同州知事選の結果は、来年の中間選挙にも影響を与えそうだ。