「アラブの春」優等生チュニジアにおける独裁の復活を警告する米紙

チュニジアでのジャスミン革命の影響はアラブ諸国へと波及し、隣国リビアでも政権は崩壊し自由選挙が行われるに至った。(写真は2012年7月に行われたリビアでの選挙の様子=UPI)

依然続く国内の混乱
 2011年に中東・北アフリカを席巻した民主化運動「アラブの春」のきっかけとなり、唯一の成功例とされたチュニジア。独裁者の退陣につながった革命から10年がたつが、依然、国内の混乱は続いている。チュニジアのジャーナリストで、革命以前の人権侵害の調査のために設立された「真実と尊厳委員会」のメンバーだったシエム・ベンセドリン氏は、米紙ワシントン・ポストで「独裁への後戻りではチュニジアの問題は解決しない」と民主化への道を進み続けることの重要性を訴えている。

 地中海を臨むチュニジアは、11年の「ジャスミン革命」で、23年にわたって国を支配してきたベンアリ大統領を退陣へと追いやり、新憲法を採択、議会選挙を実施、アラブの春の優等生とされてきた。

 順調かと思われていた民主化だが、国内では、政治的腐敗、経済的困難が続き、国民は将来への希望が持てないでいるという。

 「アラブ・アメリカン・インスティテュート(AAI)」のジェームズ・ゾグビー会長は、バーレーンのニュースサイト「GDNオンライン」で、チュニジア国民の政治、社会への不満が革命後、高まっていることを指摘した。

 調査機関ゾグビー・リサーチ・サービス(GRS)が8月中旬から9月初めにかけて行った調査では、71%が、革命前の方が生活は良かったと答えている。これでは、国民が革命前の独裁体制を望むのも無理はない。

 その中で重要な課題として、①新型コロナウイルス感染拡大への政府の対応②経済③腐敗・汚職―の3点が指摘されている。この3点に対する肯定的な評価は、13~22%でしかない。

 また今後については、大多数の人々が憲法と選挙法の改正、早期の選挙を望んでいるという結果が出ている。

不正選挙に国民不満

 GRSが革命後に実施してきた調査によると、革命直後、83%が希望を感じているとしていたが、13年にはわずか39%に低下。大統領選、議会選が実施された19年には50%超にまで持ち直すが、昨年、今年と急落、これには、経済、腐敗に加えて、新型コロナの影響があるものとみられている。

 ゾグビー氏は、これらの結果について、議会第1党のイスラム政党、アンナハダの無能ぶりを指摘する。また、サイード大統領に対しては、構造改革と分断された政治機構の修復が必要であり、「あまり時間はない」と、経済と腐敗への迅速な対応を求めている。

 一方、ベンセドリン氏は、司法、選挙制度、経済の改革の必要性を訴えている。

 チュニジアでは、14年と19年に選挙が実施された。いずれも自由選挙とされているが、ベンセドリン氏によると、実情は、賄賂など選挙資金をめぐる不正が横行した結果、国民の不満が高まっているという。経済についても、若い起業家らが締め出されるなど、既得権益層の支配が目立ち、不正があっても、犯罪組織の影響力が強く、罪に問われることはないという。

時間がかかる民主化

 ベンセドリン氏は、これらの問題に対処するための「民主的に実行可能な方策はある」と力説。「チュニジアの変革は、根底からの機構改革であり、まだ始まって10年しかたっていない。歴史の中で見れば、ほんの一瞬だ」と息の長い改革、民主化への取り組みの必要性を訴える。

 また、「ハンガリーとポーランドで共産主義が打倒されてから何十年もたち、欧州連合(EU)にも加盟したが、依然として民主化への挑戦が続いている」と民主化の難しさを強調している。

 特にベンセドリン氏は、腐敗への対処など、司法制度の改革の必要性を訴えている。

 一国の民主化は一朝一夕にはできない。チュニジアでの民主化への道は緒に就いたばかりだ。今後、チュニジアが民主化の優等生を呼ばれる日が来ることを期待したい。

(本田隆文)