ロシア、下院選後も続く言論弾圧
個人にも「外国の手先」烙印/定義あいまい、情報収集も対象に
9月のロシア下院選挙での与党勝利を受け、プーチン大統領は2024年に予定される次期大統領選挙に向け、安定した政権基盤を確保した。これにより反対派への締め付けも一段落するのではとの見方もあったが、そうはならなかった。「外国のエージェント(手先)」法による言論の締め付けはさらに強化された。また、大統領が地方の「長」をより簡単に罷免することができる法案も提出された。(モスクワ支局)
9月17日から19日に行われた下院選で政権与党「統一ロシア」は得票率が約50%となり、改選前から10議席を失ったものの、定数450議席の7割以上に当たる324議席を獲得した。
ここ数年来、支持率の低下が続いていた同党の敗北を恐れ、クレムリンは下院選まで1年となった昨年以降、反政権勢力の弾圧を徹底的に進めた。外国から資金援助を受けるNGOや報道機関を「外国のエージェント」として登録を義務付ける規制法を改正し、個人にも適用した。「外国のエージェント」はソ連時代に使われた、外国のスパイを指す呼称である。独立系ネットメディアを次々と「外国のエージェント」に指定し、政権批判につながる言論を封じ込めた。
与党の勝利により、次期大統領選は安定した政権基盤の下で行われる。ならば反政権勢力の締め付けも一段落するだろう。こんな見方も流れていたが、甘い考えだった。ロシアはプーチン大統領とその取り巻きグループが支配している。握った権力が大きければ大きいほど、彼らはそれを失うことを恐れ、歯向かおうとする芽を執拗(しつよう)に摘み続ける。
ボロジン下院議長は12日の下院招集に先立ち、国営放送のインタビューで次のように語った。「外国による干渉は間断なく行われており、ロシアの主権は常に侵害されている。これに対抗することがわれわれの任務だ」
これに先立つ9月29日、独立系ネットメディア「ОVD―インフォ」「メディアゾーン」や二つの社会団体、22人の個人が「外国のエージェント」に新たに指定された。注目すべきは、同じ29日に公表された、連邦保安局(FSB)長官の第379指令である。外国やその国家機関、国際組織、外国市民、無国籍者の利益のために情報を「手渡した者」だけでなく、「集めた者」も「外国のエージェント」とすると、その定義を拡大したのだ。
「情報を集める」についての定義はあいまいであり、メディアや、調査活動を行う者は、いつでも「外国のエージェント」に指定される可能性がある。
政権批判や人権侵害の告発で知られるロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長が8日、ノーベル平和賞を受賞した。ムラトフ氏は、過去に殺害された同紙の記者ら6人の名前を挙げ「この受賞は自らの仕事に命を捧(ささ)げたわれわれの専門家たちのものだ」と語った。
さらに、言論統制と並行し、大統領を中心とする独裁体制構築に向けた動きが進んでいる。下院に「公権力編成の一般原則に関する法案」が提出されたのだ。
これは現行の行政機関に関する法を一部改正するもので、①地方自治体のトップ「知事」の呼称を「長」に変更、②連続2期までの任期制限を撤廃する。重要なのはそれ以降の③有権者による地方の長に対するリコール制度を撤廃、④地方の「長」が信頼を失った場合、大統領はこれを解任できる――としているものだ。
プーチン大統領は04年、地方知事らの公選制を廃止したが、国民の反発を受けメドベージェフ大統領が12年、さまざまな制限を付けて公選制を復活させ、リコール制度も導入した。知事が汚職、職権乱用など違法行為に関与し、それが法廷で立証された場合に、大統領は知事を罷免できるとした。
今回の法案は、有権者によるリコールという民主主義のメカニズムを廃止した上で、大統領による知事の罷免を「信頼を失った場合」と、あいまいな規定に変更するものだ。成立すれば、大統領はいつでも地方の長をクビにできることになる。