露の攻勢になす術ない米

チャールズ・クラウトハマー

米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

ソ連復活望むプーチン氏

ウクライナは米欧の支援必要

 【ワシントン】ヘンリー・キッシンジャー元国務長官はかつて、ピョートル大帝以来、ロシアは1年にベルギー一つ分の割合で拡大したと指摘した。だがそれも、振り出しに戻った。ソ連が崩壊したからだ。ロシアのプーチン大統領はソ連崩壊を、「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼んだ。

 プーチン氏の使命はそれを復活させることだ。まず、近隣の民主体制を破壊することで伝統的なロシアの独裁体制を復活させる。その後、鉄壁の「安定」を築く。

 2008年にグルジアとの戦争で二つの地域を分離させ、母なるロシアの懐に戻した。2地域の独立は政治的な見せ掛けだ。そして昨年、ウクライナに圧力をかけ、時間をかけて進められてきた欧州連合(EU) との同盟のための交渉を拒否させ、新しいミニ・ロシア帝国の核となるプーチン氏立案の「ユーラシアン連合」に取り込もうとした。

 だが最終的には、ウクライナは違う道を選んだ。政権内の親露派ビクトル・ヤヌコビッチ大統領を解任し、西側を目指した。しかし、西側、つまりEUと米国はどうすればいいか分からない。

 ロシアはどうすべきか知っている。ロシア政府は、大統領の解任をファシストの無法者の仕業であり違法だと非難し、議会が樹立した新政府の承認を拒否、すべての経済支援を停止し、ウクライナ国境に軍を配置して挑発し事態の緊張を招いた。

 それに対しEUはためらい、オバマ大統領は何も行動しない。ウクライナの人々が自由を求めて戦い始めて3カ月間、何もしなかったオバマ氏は最近になって、カメラの前で、ウクライナは「冷戦のチェス盤」ではないと思うと語った。

 残念なことに、これこそウクライナを取り戻そうとしているプーチン氏が望んでいたものだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙は内部情報として、オバマ氏は安定を望んでいると報じた。オバマ氏は、ウクライナの危機はコントロール可能と考えただけで、独裁化が進むこの地域を方向転換させ、ウクライナを西側に仲間入りさせてロシアの新帝国主義を封じる好機とは捉えなかった。

 オバマ氏が民主主義を支持しているのは確かだ。民主化は国の中から組織的に発展していくべきものだ。外部からの干渉で押し付けられるものではなく、自律的に発展していくべきものだ。

 しかし、ウクライナは自立していない。支える隣人もいない。米国が肩入れしないとウクライナにしっかりした体制は築けない。ロシアの圧力にさらされるだけだ。

 米国が行動しないと空白が生じるということがオバマ氏には分かっていない。イラクから米軍を撤退させたことで、イラクはイランの影響下に入った。同様に、米国がシリアを切り捨てたことで、ロシア、イラン、ヒズボラが接近し、形勢は逆転した。

 ウクライナの空白はすべてプーチン氏が埋めた。プーチン氏は巨額の支援でウクライナの大統領をEUから引き離した。その大統領が解任されると支援を停止した。プーチン氏は、突然、ロシア軍を国境付近に展開させた。ロシアの厚生当局は、ウクライナからの食料の安全性にも疑念を表明した。

 もちろん、食品衛生キャンペーンを始めようというのではない。ウクライナ政府へのメッセージだ。一日でウクライナからの食料輸出を止め、翌日には天然ガスの供給を止められるというメッセージだ。破産させることも、凍えさせることもできるというメッセージだ。

 キッシンジャーはこうも言っていた。「平和が達成できるのは最終的には、覇権またはパワーバランスによってだ」。ウクライナはロシアの軍門に下るのか。それとも、ようやく、自国の未来を自身の手で決めることができるのか。それには米国がロシアに対抗することが必要だ。

 ならばどうすればいいのか。まずは、ウクライナの革命への完全な支持を宣言することだ。次いで、大規模な借款と支援を提供する。つまり、ロシア政府からの150億㌦の穴を埋め、差し迫った金融危機を回避させる。その後、EUとともに長期的な支援を行う。国際通貨基金(IMF)を通じて行うのがいいだろう。

 ケリー米国務長官は、ロシアが介入すれば、それは過ちだと語った。だが、こんなことを言っても何の役にも立たない。言わないよりはいい程度だ。この言葉を、黒海に海軍を派遣することで裏打ちすれば、ずっと効果的だ。

 重要なのは、ウクライナがしっかりした経済基盤を築くまで、米国と欧州がロシアの圧力に対抗し、ロシアのアメとムチに取って代わることだ。

 150億㌦は大金だ。しかし、EUと米国の国内総生産(GDP)を合わせた額の1%の10分の1の半分以下だ。人命を失うよりも、資金を使う方がはるかに望ましい。ウクライナの戦略的価値を考えればなおさらだ。ウクライナがなければ、ロシア帝国もないからだ。

 プーチン氏はそれを知っている。だから、ウクライナを締め上げ続けているのだ。問題は、米政府がそれに対抗し、ウクライナが呼吸できるようにすることができるかどうかだ。

(2月27日)