政府の原発処理水放出計画に毎日が「見切り発車」と非現実的な批判

◆滞る肝心の廃炉作業

 政府は、東京電力福島第1原発の放射性物質を含んだ処理水の海洋放出について対策の中間取りまとめを示した。今後、漁業関係者などと意見交換を進めた上で年内に具体的な行動計画を策定する。

 これまでに社説で論評を掲載したのは、毎日、産経など4紙。見出しを記すと、次の通りである。8月27日付毎日「見切り発車は許されない」、29日付産経「『補償範囲』に懸念が残る」、31日付読売「風評被害対策に全力を尽くせ」、本紙「安全性の発信強化に努めよ」――。

 見出しの通り、最も批判的なのが毎日。同紙が言う「見切り発車」とは、「日程ありきで進めれば、地元や関係者の反発は強まるだけ」で、「信頼関係を構築できないまま」計画を進めることをいう。

 「日程ありき」というのは、処理水をためる敷地内のタンクが既に1000基を超え、2023年春ごろに満杯になり廃炉作業の妨げになること。また、放出の方法について、海底にトンネルを設置した上で1㌔程度沖合に流す方針が示されているが、その海底トンネルには岩盤の中を通す工事が必要なため、9月にも原子力規制委員会に計画を申請し、同月以降に海底の地質を確認するボーリング調査を行う見通しであること、などである。

 要は9月までに地元や関係者の理解が得られるか、そうでなければ、「許されない」というわけである。

 確かに理想論ではそうだが、果たして、こうした見方が現実的かどうか。理解が得られていないからと放出をいつまでも認めなければ、肝心の廃炉作業が滞ってしまう。これが、本当に地元のためになるのか、ということである。

◆風評被害対策が重要

 理解が得にくい状況があるからこそ、読売や本紙が指摘するように、風評被害対策に全力を尽くすことや、風評被害を少なくするために、安全性の発信強化に努めることが求められるわけである。

 原発処理水の放出については、何といっても、手前みそになるが、本紙指摘の通り、「放出に対する理解を広めることが重要だ」ろう。

 処理水には浄化装置で取り除けない放射性物質の一種トリチウムが含まれているが、トリチウムは自然界にもあり、微量なら環境や人体にも悪影響はない。日本の海洋放出を批判する中国、韓国を含め世界各国の原子力関連施設は、福島第1原発の事故が起きる前から、トリチウムを含む水を放出している。

 しかも、処理水に含まれるトリチウムは、「世界保健機関(WHO)の定める飲料水基準の7分の1未満にまで希釈され」(読売)――本紙では国の基準値の40分の1未満に海水で薄められ――、しかも、漁業権が設定されていない沖合1㌔付近から放出される予定なのである。読売や本紙が、こうした事実を国内外で広く理解してもらうことが重要と強調するのも尤(もっと)もである。

 毎日の批判の背景には、東電への不信があり、読売も「東電への信頼は十分に回復していない」と評価は甘くない。読売は、政府や第三者機関が周辺海域を監視し、国際原子力機関(IAEA)にも評価してもらうことが有効だろう、としたが同感である。

◆過剰対応が懸念材料

 産経は、風評被害対策で「首をかしげたくなるものもある」として、水産物の販売減少が起きた場合の、一時的に国が買い上げて救済する基金の創設について、対象が福島県や近隣だけでなく全国になっており「適用範囲が広すぎる」と批判した。「これでは風評とはいえ、放出の影響が日本海側まで及ぶことを国が認めることになってしまう」というわけである。

 中国や韓国の対日批判の新たな呼び水となり得ることや、IAEAの協力を得て「世界への情報発信に客観性と透明性をもたせようとしているが、その効果が薄らぎかねない」(床井明男)