ニカラグア・オルテガ大統領 反政府派への弾圧強化

 中米ニカラグアの軍事独裁政権に左翼ゲリラの指導者として立ち向かい、1979年の「ニカラグア革命」を成功させたダニエル・オルテガ大統領(75)。そのオルテガ氏が、今度は「独裁者」として反大統領派に対する強権政治を行っている。11月に大統領選挙が実施される予定だが、オルテガ政権は大統領候補を次々と拘束し、政権維持へのなりふり構わぬ手法を取っている。(サンパウロ・綾村 悟)

主要紙を発行停止に
大統領候補ら次々拘束

 ニカラグアの主要紙「ラ・プレンサ」が14日、警察当局による家宅捜索を受けた。脱税とマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で、すでに逮捕された同紙幹部に関連したもの。

中米ニカラグアのオルテガ大統領=2020年7月、マナグア(AFP時事)

中米ニカラグアのオルテガ大統領=2020年7月、マナグア(AFP時事)

 これに先立つ12日、同紙は、新聞用紙の調達が困難となったことを理由に、発行停止を明らかにしていた。現在は電子媒体(ホームページ)での記事配信を続けている。

 1926年創刊のプレンサ紙は、ニカラグアで最も歴史のある新聞で、反米左派オルテガ政権への厳しい批判を続けてきた。これにより、オルテガ政権からの妨害で紙やインクの調達に悩まされてきた。警察による幹部逮捕も、政権の意向を受けたものだ。

 プレンサ紙は12日付の朝刊1面で、「独裁政権が紙を押さえても、真実は隠せない」と主張、今後もオルテガ政権に立ち向かう姿勢を表明した。

 政権による妨害を受けたメディアはプレンサだけではない。2019年9月には、国内第2の主要紙「ヌエボディアリオ」が休刊に追い込まれた。オルテガ政権への批判が嫌われ、輸入に頼っていた紙とインクの購入が妨害されたためだ。

 政権に対して批判的なメディアを妨害し、閉鎖に追い込む手法は、同じく反米左派政権による独裁政治で知られる南米ベネズエラなどでも使われたものだ。

 一方、オルテガ政権による強権政治の矛先は、反大統領派の政治家や市民活動家にも向けられている。

 11月7日に行われる大統領選挙で連続4選を目指すオルテガ氏はこの数カ月、脅威となり得る政治家や活動家を国家反逆罪や資金洗浄などの容疑で次々に拘束した。現在も33人が拘束されており、そのうち8人は大統領選出馬が取り沙汰されていた政治家だ。

 また、ニカラグア選管は6日、中道右派の野党連合「自由のための市民たち(CXL)」に対して、大統領選挙への参加資格を剥奪する決定を下した。理由は、CXLの代表が国内法に反して米国との二重国籍を所有しているというもので、「国家主権を脅かす行為」と断定された。

 オルテガ政権は昨年末、悪名高い「国家治安強化法」を成立させた。国家主権を脅かす行為に対して最高15年の懲役刑を科すもので、反大統領派の弾圧に利用されている。

 オルテガ氏は、ソモサ軍事独裁政権を1979年に打倒した左翼ゲリラ組織「サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)の出身だ。革命後、オルテガ氏は、84年の大統領選挙時に政党化したFSLNから出馬して当選、第1期オルテガ政権を樹立した。

 その後、オルテガ氏は、90年の大統領選挙で野党連合に敗北した後、2006年、11年、16年の大統領選挙で3期連続当選を果たした。14年には、憲法を改正して大統領の無期限再選を可能にしたほか、妻のムリジョ氏を副大統領に起用した。

 オルテガ政権は、ベネズエラから原油などの支援を受けてきた。だが、ベネズエラが深刻な経済危機に陥ると、ニカラグアの状況も悪化。オルテガ政権が18年4月に財政改革に伴う社会保障制度改革案を発表すると、各地で反政府デモが発生し、大統領の退陣を求める動きにまで発展した。

 この際、治安部隊による過激な鎮圧と、政権支持派の武装民兵によるデモ隊への襲撃によって、デモ参加の学生や取材中のジャーナリストら350人が死亡する事態が発生。オルテガ政権による強権的な政治体制が国際社会の注目を集めるきっかけとなった。

 軍政による独裁に立ち向かったはずのオルテガ氏だが、憲法を改正してまで長期政権を握ろうとする姿勢や、妻を副大統領に起用したことなどに対し、国内からは「縁故主義」「独裁政権と同じ」との批判が出ている。