過激化する「反人種差別教育」 米国
米国で左派イデオロギー色の強い「反人種差別教育」に対し、保護者や教師から反発の声が上がっている。一方で、バイデン政権はこうした教育を推進する姿勢を示しており、共和党は批判を強めている。(ワシントン・山崎洋介)
保護者、教師らが告発
「肌の色で生徒を判断」
「肌の色と人種のレンズを通して教育や歴史、社会のあらゆる側面を見ることによって、マーティン・ルーサー・キング牧師の遺産を冒涜(ぼうとく)している」
ニューヨーク市の名門女子校ブレアリーに娘を通わせるアンドリュー・ガットマン氏は先月中旬、同校に通う家族らに送った手紙の中で、その「反人種差別教育」を痛烈に批判した。
ガットマン氏は、学校側が「娘を肌の色で判断するだけでなく、他の人に対してもその肌で判断するよう奨励し、指示することを容認できない」と反発。キャロライン・ケネディ元駐日大使の母校でもある同校に、幼稚園を含め7年間娘を通わせたが、転校を決めたとした。
米国では近年、「批判的人種理論」と呼ばれる左派イデオロギーに基づいた教育プログラムが、政府機関や企業だけでなく、教育現場で取り入れられている。
保守系誌シティー・ジャーナルのクリストファー・ルフォ氏によると、カリフォルニア州の小学校3年生の教師は、生徒たちに人種や性別、宗教、家族構成などに基づき、自分が属するアイデンティティーの図表を作成するよう指示。その上で白人、中産階級、シスジェンダー(心と体の性が一致している人)、教養のある人、健常者、キリスト教徒、英語を話す人は「支配的文化」に属していると教えた。
ルフォ氏は、この理論は西側諸国のマルクス主義者が1960年代に「資本家と労働者による経済弁証法を放棄し、階級闘争を人種問題に置き換えた」ものであると指摘。長年にわたって学術界における議論にとどまっていたが、この10年で一般社会で広がりを見せているという。
ニューヨークでは、ガットマン氏以外からも、こうした反人種差別教育に批判の声が上がっている。
グレース・チャーチ・スクールの数学教師ポール・ロッシ氏が、こうした教育が生徒にもたらす悪影響について訴えた文書を公表し、学校側から教師の職を解かれた。同氏は文書の中で「変えることのできない特徴に基づき道徳的に劣った『抑圧者』の立場が学生の一つのグループに割り当てられる。一方、『被抑圧者』と見なされる学生には、依存、恨み、道徳的優位性が育まれる」と指摘し、生まれ持った肌の色で生徒を分類していると批判した。
こうした状況の中、保守色の強いアイダホ州は先月28日、学校や大学で批判的人種理論の授業を制限する法律を成立させた初の州となった。米メディアによると、このほか少なくとも12州で、同理論を制限する法案が提出されている。
一方、バイデン政権は批判的人種理論を推進する動きをしている。教育省は先月19日、「人種的、民族的、文化的、言語的に多様な視点を取り入れた」プログラムへの助成金を優先するとする規則案を発表。特にボストン大学のイブラム・ケンディ教授の著作とニューヨーク・タイムズ紙の「1619プロジェクト」を「奴隷制の結果と黒人アメリカ人社会への重要な貢献」を反映するものとして評価した。
ケンディ氏は「資本主義は本質的に人種差別だ」などと主張するなど、過激な思想で知られる。また最初のアフリカ人奴隷が連れて来られた年が米国の原点だとする1619プロジェクトは、歴史の歪曲(わいきょく)が指摘されるなど物議を醸した。
バイデン氏は、トランプ前大統領がこれを是正するために設置した「1776委員会」を就任初日に廃止。また、バイデン氏は、トランプ氏が批判的人種理論に基づく政府機関職員を対象にした人種差別に関する研修の禁止を撤回している。
共和党のマコネル上院院内総務ら39人の上院議員は、教育省の規則案についてカルドナ長官に宛てた書簡で「分裂的かつ過激で、歴史的に疑わしい専門的流行語とプロパガンダを強化させる」ものだと批判した。