ボリビア 反米左派政権が復活

保守派は好機生かせず

 先月18日に実施された南米ボリビアの大統領選挙で、反米左派エボ・モラレス元大統領の後継候補ルイス・アルセ元経済・財務相(57)が当選し、11月8日に就任した。昨年10月の大統領選挙不正事件で14年ぶりに政権を握った保守派は、絶好の好機を生かせず、南米での保守派後退を許してしまった。
(サンパウロ・綾村 悟)

中露に接近の意向

 キューバ革命の英雄として知られたチェ・ゲバラは、1967年にボリビアを南米大陸の革命拠点としてゲリラ活動を行った。ボリビアは南米に強い政治・経済的影響力を持つ国ではないが、内陸国として南米各国と国境を接する要衝地の役割を果たしてきた。

8日、ラパスで行われた就任式で手を振るボリビアのアルセ大統領(AFP時事)

8日、ラパスで行われた就任式で手を振るボリビアのアルセ大統領(AFP時事)

 そのボリビアで行われた大統領選挙は、事実上、モラレス氏が党首を務める社会主義運動(MAS)のアルセ氏と、保守・中道の政党連合から出馬したカルロス・メサ元大統領(67)の一騎打ちだった。

 選挙戦は接戦が予想されたにもかかわらず、アルセ氏が1次選挙で有効票の55%以上を獲得し、決選投票を待つことなく勝利を決めた。メサ氏の得票は29%にとどまり、アルセ氏の圧勝だった。

 今回の選挙は本来、保守・中道に有利に働くはずだった。昨年10月の大統領選挙で4選を狙ったモラレス氏は、不正選挙疑惑を受けて辞任、反政府デモが全国に広がる中でアルゼンチンに亡命した。国軍トップなどがモラレス氏に辞任を求めた経緯から、実質的なクーデターだったといわれている。

 その後、保守派のアニェス国会副議長が暫定大統領に就任。14年ぶりに政権を握った保守派にとっては絶好の機会が訪れた。ボリビア初の先住民系大統領として、カリスマ性を発揮しながら高い支持率を保ってきたモラレス氏が失脚したのだ。

 しかし、アニェス政権や保守系政治家らは、モラレス支持派との和解に失敗。逆にモラレス派や先住民活動家への弾圧に動いた。モラレス氏の復帰を求める反政府デモに対し、暫定政権は治安部隊による鎮圧を指示したが、デモ参加者ら数十人が死亡する最悪の事態に発展した。

 さらに、アニェス政権は昨年末、亡命中のモラレス氏をテロ幇助(ほうじょ)の容疑などで訴追した。モラレス氏は、亡命後も人口の過半数を超える先住民系住民の多くから熱烈な支持を受けていた。保守派によるこうした追及が、暫定政権に対する国民からの不信感を招いた。

 また、新型コロナウイルスの感染拡大も、アニェス政権に不利に働いた。ボリビアは南米各国の中でもいち早く国境封鎖などの措置を講じ、厳格な規制導入で新型コロナを封じ込めようとしたが失敗。感染者が増加する中で、経済はマイナス8%成長の不振に陥った。

 保守派が昨年11月に政権を奪取した際、今回の選挙でこれほどの大差で敗れるとは予想もできなかったはずだ。

 一方、当選したアルセ氏だが、英国に留学し、ボリビアの中央銀行で働いた後に、モラレス政権で財務相を務めた実務肌の人物だ。

 アルセ氏が大統領に就任した翌日に、モラレス氏は亡命先のアルゼンチンから帰国した。支持者から熱烈な歓迎を受けたモラレス氏だが、アルセ氏は「モラレス氏を政府の役職に用いる予定はない」と断言し、政治的に距離を置き、反対派の反発を招かないようにしている。

 アルセ氏は当面、経済の再建と新型コロナの抑え込みに注力するものとみられる。長年の反米左派の盟友であったベネズエラも、マドゥロ政権下で深刻な経済危機に見舞われており、ボリビアやベネズエラが以前のような影響力を中南米で取り戻す可能性は低い。

 ただ、アルセ氏は、暫定政権で遠のいたロシアや中国との関係を修復すると明言している。ロシアから新型コロナ対応ワクチンを購入する意向を示したほか、原子力発電所の建設などでも協力を求めている。

 アルセ氏が次期米政権とどのような関係を保つのかは明らかではないが、中国とロシアが影響力を拡大する南米地域で親米政権を失ったことは事実だ。