米大統領選 バイデン氏「勝利」宣言 パレスチナ、関係改善求める
米大統領選でバイデン前副大統領が「勝利」宣言をしたことにより、パレスチナが中東和平交渉に関して期待を寄せている。バイデン氏がイラン核合意へ復帰する姿勢を示していることから、イランはトランプ米政権により再開された経済制裁の緩和を期待している。米政権が民主党に移った場合、2015年以来、中東地域で核開発競争が起こらないようイラン核合意に強く反対してきたイスラエルは、イランを先制攻撃する可能性がある。(エルサレム・森田貴裕)
イランは制裁緩和を期待
イスラエル、イラン先制攻撃も
パレスチナ自治政府のアッバス議長は8日、声明で「パレスチナの自由、独立、正義、尊厳を実現するために、バイデン氏と協力し、共に働くのを楽しみにしている」と歓迎し、関係強化を求めた。
バイデン氏は、パレスチナ人の独立した国家を誕生させる「2国家共存」を支持しており、イスラエルによるヨルダン川西岸の入植地建設を厳しく批判していることから、これまでのイスラエル寄りの政策が見直され、入植地での住宅建設推進にも反対するとみられる。
トランプ政権下では、エルサレムの首都認定や米大使館のエルサレム移転がなされ、イスラエルによるヨルダン川西岸での入植活動を「国際法に違反していない」として事実上容認した。また、トランプ氏が1月に発表した「世紀のディール(取引)」と称した中東和平案では、ヨルダン川西岸の一部併合を盛り込むなど、イスラエル・パレスチナ問題に関しては常にイスラエル寄りで推進されてきた。アッバス氏が和平案を拒否して以来、パレスチナと米国の関係は事実上の断絶状態になっている。
トランプ政権とバイデン氏の政策で最も違う点は、イランの核開発問題だ。イランの核開発をめぐっては15年、オバマ米政権の主導により米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の間で、イランの核開発の大幅な制限と引き換えに、経済制裁を解除する合意が成立した。しかし、トランプ政権は18年5月8日、核合意の根本的な欠陥として、イランの核開発の野心を止めることができないだけでなく、核弾頭搭載可能な弾道ミサイルの開発をも制限できていないことなどを指摘し、一方的に離脱を表明。イランに対し経済制裁を再開した。
バイデン氏は、イランの核合意順守を条件に、米が18年に離脱したイラン核合意に復帰する考えを示している。イスラエル紙ハーレツ(電子版)によると、バイデン氏は、9月に開催されたJストリート(米国の新興ユダヤ人ロビー団体)が主催するバーチャルイベントの講演で、もし当選すれば「イランが核合意の順守に戻った場合には、核合意に復帰する用意がある」と語った。
米国による経済制裁の再開で窮地に追い込まれているイランのロウハニ大統領は8日、「バイデン氏には米国が過去に犯した過ちを償い、国際公約を守る道に戻る機会がある」と述べた。さらに、「トランプ政権に強いられた経済戦争に対するイラン国民の抵抗によって、米国の最大圧力政策が打ち負かされたことを証明した」と述べ、制裁緩和を期待した。
核合意は、イスラエル国家安全保障に関わる重要な問題である。イスラエル殲滅(せんめつ)を掲げるイランが核兵器を保有しようとすれば、中東地域における軍事的優位を維持したいイスラエルがイランの核保有能力を破壊するため先制攻撃に出る可能性もある。
クネセト(イスラエル国会)の外交防衛委員会ハウザー委員長は5日、陸軍ラジオで「核合意はイランの核兵器開発を防ぐのに十分ではなかった」と主張。「イランの核は、軍拡競争を引き起こし、サウジアラビア、トルコ、エジプトが独自の核兵器を開発するだろう」と警告した。
トルコは、核武装する権利があるとして将来的な核保有の可能性を示唆している。サウジは、敵対するイランが核兵器開発を進めれば核を保有するとしており、中東での核開発競争が激化し、中東地域全体が不安定化する可能性がある。