アフガニスタン タリバンの攻撃が激化
カタールの首都ドーハで9月12日からアフガニスタン政府と反政府武装勢力タリバンとの恒久的停戦に向けた和平交渉が開始されたものの、進展は見られず交渉は難航している。その間もアフガン政府治安部隊へのタリバンによる武力攻撃は激しさを増し、駐留米軍はタリバンに対する空爆を実施した。(エルサレム・森田貴裕)
政府との和平交渉難航
駐留米軍撤退で支配拡大の恐れ
駐留米軍は10月12日、南部ヘルマンド州でタリバンの攻撃から政府軍を守るために空爆を行ったと発表。米国のハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表は15日の声明で「ここ数週間でタリバンの攻撃が増し、和平交渉が脅かされていた」と説明。また、「タリバンと協議し、互いに攻撃を抑制することで合意した」と述べた。
一方タリバンは18日、声明で、駐留米軍が2月29日にドーハで成立した米タリバン和平合意に違反し、ヘルマンド州などの非戦闘区域を爆撃したと非難。「和平合意によれば、米軍は衝突以外では攻撃できない、空爆は明らかな違反だ」と主張した。
駐留米軍報道官は、声明で「米軍の空爆は、タリバンの攻撃を受けている政府軍を守るために行われた」と述べ、ハリルザド氏は「タリバンの主張には根拠がない」と一蹴した。
米タリバン和平合意には、タリバンが支配地域でアルカイダなどのテロ活動を阻止することを条件として、アフガンに駐留する米軍および外国軍の段階的撤退を2021年5月までに完了させることなどが盛り込まれている。
米政府は6月、それまで約1万3000人いた駐留米軍を約8600人に削減した。トランプ米大統領は9月10日、駐留米軍を約4000人に削減すると表明。さらにトランプ氏は今月7日、ツイッターで「アフガニスタンに駐留する勇敢な兵士らをクリスマスまでに帰国させるべきだ」と表明した。
北大西洋条約機構(NATO)は、アフガン撤退の時期について、加盟国が協議し共に決定を下すとしている。
トランプ氏の表明を受け、国内の駐留外国軍を排除したいタリバンは「合意履行に向けた前向きな一歩だ」と歓迎した。
アフガン政府は、駐留米軍の撤退で勢いを得たタリバンが武力で権力を握ろうとすることを懸念している。
タリバンは、旧ソ連軍がアフガンから撤退した後、武装勢力の対立で内戦状態だった1994年、南部カンダハル州でイスラム回帰を訴え結成された。同州の都市カンダハル制圧後、国内や隣国パキスタンから多くのイスラム神学生が加わり、急速に勢力を拡大した。タリバンとはアラビア語でイスラム教を学ぶ「学生たち」を意味する。96年には首都カブールを制圧して政権の樹立を宣言。2年後には北部バルフ州の都市マザリシャリフを制圧し、国土の大部分を支配下に収めた。
タリバン政権は、女性差別など極端なイスラム根本主義政策を取り、2001年には、イスラム教の教えに反した偶像崇拝に用いられる仏像は、全て破壊されなければならないなどと宣言して、世界遺産であるバーミヤン遺跡の大仏立像2体を爆破し、国際的な批判を浴びた。
01年の米同時多発テロ後、テロを首謀した国際テロ組織「アルカイダ」の指導者ウサマ・ビンラディン容疑者をタリバン政権がかくまい、引き渡しを拒否したため、米国主導の有志連合がアフガンに侵攻。同年12月、タリバン政権は崩壊した。
その後、タリバン戦闘員は国境を越えてパキスタンから武装抵抗活動を行った。05年にはアフガン南部各地でタリバンを中心に武装勢力が蜂起し勢力を回復した。アフガン政府や駐留外国軍を標的とした攻撃を表明したタリバンは、07年に首都カブールで自爆攻撃を開始した。同年9月、カルザイ元大統領が最初の和平交渉を提案したが、国内に外国軍がいることを理由にタリバンが拒否した。
今年2月の米タリバン和平合意では、アフガン政府が最大5000人のタリバン側捕虜、タリバンが最大1000人の政府側捕虜を3月10日までに解放した後に和平交渉を開くとしていた。アフガン政府が9月10日に残りのタリバンの捕虜6人を解放後、和平交渉の実現となった。
和平交渉がまとまらないまま外国軍がすべて撤退した場合、国土の半分を掌握しているタリバンは、パキスタンから武器の支援を得て支配地域を拡大する可能性がある。