イラン核合意順守せず IAEA査察、濃縮ウラン貯蔵量が上限超
国際原子力機関(IAEA)は9月4日、イランの核物質が保管されている疑いがある2施設のうち一つを査察、イランの低濃縮ウラン貯蔵量が、2015年のイラン核合意で定められた上限の10倍を超えたと発表した。トランプ米政権が18年にイラン核合意から離脱し制裁を再開して以降、イランは対抗措置として核合意の義務違反を続けている。(エルサレム・森田貴裕)
新型ミサイル開発も
ナタンツ核施設の爆発は米イスラエル破壊工作説も
IAEAのグロッシ事務局長は8月24日から、就任以来初めてイランを訪問し、ロウハニ大統領やザリフ外相、サレヒ原子力庁長官らと会談。イランは8月26日、未申告の核関連施設2カ所について、IAEAの要請に応じて査察を受け入れることで合意した。イランはIAEAが指定した核施設2カ所へのアクセスを自主的に提供し、IAEAはイランが申告した以外の場所への立ち入りに関して追加要求や質問もしないとした。
イランはこれまで、IAEAによる2施設への立ち入りは法的根拠がなく義務の範囲を超えるとして拒否していたが、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が米トランプ政権の仲介で国交正常化する中東情勢を受け、孤立化を回避するため査察を受け入れたとみられる。
IAEAの報告書によると、イランの低濃縮ウラン貯蔵量はここ3カ月で534㌔増加して2105㌔に達したという。
イランの核開発をめぐっては15年、米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の間で、イランによる原子力活動の大幅な制限と引き換えに、経済制裁を解除する核合意が成立した。
トランプ米政権は18年5月、核合意の根本的な欠陥として、核開発の制限に期限があることや、ミサイル開発に制限がないこと、テロ支援の放置などを指摘し、一方的に離脱を表明。対イラン制裁を再開した。
イランはこれに反発し、対抗措置として核合意を順守しないと宣言した。イラン政府は19年7月1日、低濃縮ウラン貯蔵量が核合意の規定を上回ったと表明し、核合意の義務に初めて違反した。同7日には、対抗措置の第2段階として核合意の上限を超えて、ウラン濃縮度を引き上げると発表。9月には、第3段階となる核合意の一部を停止し、新型の遠心分離機の製造や核技術の研究開発をIAEAの監督下で進めると発表。11月7日には、対抗措置の第4弾として、核合意で認められていない中部フォルドゥの地下核施設でウラン濃縮を再開したと発表。今年1月5日、第5弾として、ウラン濃縮を無制限に続けると表明した。ただIAEAには協力を続けるとした。
さらにイランは8月20日、新型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの開発に成功したと発表した。弾道ミサイルの射程は1400㌔で、巡航ミサイルは1000㌔を超えるという。ロウハニ大統領は、「わが国の軍事力とミサイル計画は防衛のためのものだ」と主張した。
イランと対立する米国やイスラエルは、ウラン濃縮のための最新鋭の遠心分離機の開発を懸念している。核爆弾はウラン235濃度を90%以上に濃縮する必要があり、核爆弾1個を取得するまでの時間が大幅に短縮可能となる。
イスラエルのネタニヤフ首相は18年9月の国連総会で、敵対するイランが首都テヘランに秘密の核倉庫を隠していると訴え、IAEAに査察を行うよう求めている。
イラン政府は今年8月23日、中部ナタンツの核関連施設で7月2日に起きた爆発について、治安当局の捜査の結果、破壊工作によるものだと発表した。この核施設は2010年に米国とイスラエルのサイバー攻撃を受け、全体の1割に当たる約8400台の遠心分離機が稼働不能になった。他にウラン濃縮用遠心分離機の大手開発元や製造工場などもサイバー攻撃を受けた。
報道では、イスラエルによるサイバー攻撃の可能性が報じられたが、イスラエルは肯定も否定もしていない。イラン当局は、サイバー攻撃を受ければ報復すると警告しており、イスラエルとイランのサイバー攻撃の応酬が激化する可能性がある。