検察庁法改正案 明確に説明し国民の理解を


 検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案の今国会での成立が見送られた。安倍晋三首相が、国会会期末までに、新型コロナウイルス対策を含む令和2年度第2次補正予算案の成立を優先させたためだ。

 今秋開催予定の臨時国会に向けて継続審議となったが、政府・与党は国民の理解を深めて成立を確実なものにするため、あいまいな点を明確にして誤解を解き、丁寧な説明を積み上げていくべきである。

 特例の基準作りに着手

 今回の法案は、人事院が2年前に国家公務員の定年を60歳から65歳に引き上げることを求めた勧告が契機となってまとめられたものだ。検察官の定年63歳を段階的に65歳に引き上げるという定年の延長は「束ね法案」として内閣委員会に同時に提出された国家公務員法改正案と同様、時代の要請である。

 野党や主要メディアが問題にしたのは、役職定年を63歳とする制度が新設された中に、内閣あるいは法相の判断で役職定年を最長3年延長できるという特例が盛り込まれた点にあった。政権に都合の良い幹部をポストにとどめることができるといった疑念からだ。これが検察の独立性と三権分立に反すると主張するのだが、検察官は一般公務員であり、検事総長らの人事権はもとより内閣にあることから批判は当たらない。

 政府が1月、定年目前だった黒川弘務東京高検検事長の定年延長について異例の閣議決定をした直後だけに「黒川氏を将来、検事総長に据える布石ではないか」などといった臆測が国会で追及された。首相は「特例による恣意(しい)的な人事が行われることは全くない」と繰り返したが、それだけで理解を得られないのは当然だ。

 特例とは何か、について「現時点で具体的に全て示すのは困難だ」(森雅子法相)と言うのでは説得力を持たない。森法相は「疑念を解消できるよう、具体的な基準を作ることに着手したい」と語った。人事院規則を踏まえ、この点を明らかにして国民の理解を深めることが肝要である。

 一連の「成立断念劇」では、数百万件という出所不明のツイッターによる反対の声を利用して野党議員や主要メディアが連動して安倍政権批判を強めた。首相は「国民の声に耳を傾ける」と言うが、それだけでは弱い。法案改正の緊急性、必要性についてもっと踏み込んだ強い国民へのメッセージこそが問われるのではないか。

 かつての安全保障関連法や特定秘密保護法の採決前の時と同様、組織的な動員があった可能性は否定できない。とはいえ、今国会での断念は、政府の対応に十分な準備と意志が欠けていたと言わざるを得ない。

 一方で、法務省、検察の現役幹部が中心となってまとめた法案の内容に、元検事総長を含めた検察OBが意見書を出して撤回を要求した。なぜ両者に食い違いが生じたのか、検証が必要だろう。

 2次補正で結束せよ

 新型コロナの影響下にある国民生活は厳しい。与野党は対決案件がなくなった今こそ、2次補正予算案を成立させるため、結束して対処すべきである。