WHO総会 中国の政治の壁崩す改革を


 新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)で感染者が500万人に迫り、死者が30万人を超えた中で世界保健機関(WHO)年次総会が行われ、国際社会の対応を検証する「公平、独立、包括的」な調査の実施をテドロス事務局長に要求する決議を採択した。

 最も深刻な感染被害国の米国が同ウイルス発生地の中国とWHOの初動に対し厳しく批判したことが背景にあり、初動における問題点の究明はパンデミックを回避できなかった経緯を検証する際の焦点となろう。

「三戦」を国際社会で展開

 調査を求めた決議を受け、テドロス氏は「可能な限り早い適切な時期に行う」と表明した。中国も調査の受け入れに同意したが、時期については流行収束後に固執するなど実現は予断を許さない。

 そもそも、中国とWHOに対する批判が集中したのは、中国の閉鎖的な共産党支配と、世論戦・心理戦・法律戦の「三戦」を国際社会で展開し、WHOなど公平であるべき国際機関に持ち込む政治体質の弊害を看過できないからだ。

 感染症は国境も政治も関係なく人間を通じて広がるが、中国は「一つの中国」という自国の政治目標のためWHOから台湾を排除し、感染拡大の局面では米国が感染源であるかのように吹聴した。

 また、WHOは中国の姿勢を問題視することもなく、当初は新型コロナ感染のリスクを過小評価していた。防疫には、中国の政治の壁を崩す改革が何よりも重要ではないのか。

 死者、感染者とも最大被害国の米国が厳しい目を向けるのは不自然なことではない。トランプ大統領がWHOへの拠出金停止や脱退を示唆しなければ、公平で独立した調査の実施も運営改革も動きださないであろう。

 特に、昨年12月に湖北省武漢市で死に至る肺炎の感染の広がりに危機感を持った医師らがインターネット交流サイト(SNS)によって警告を発したところ、デマを流したとして拘束した中国の対応は極めて問題だ。習近平国家主席が「封じ込め」を指示したのは1月20日からで、昨年12月1日の最初の感染確認から1カ月半以上も経過し、手遅れだった。

 年次総会でアザー米厚生長官が「少なくとも一つの加盟国が感染拡大を隠蔽(いんぺい)するため、透明性の義務を果たさず、全世界に莫大(ばくだい)な損失をもたらした」と述べたのは、このためだろう。

 WHOは1月23日の緊急会合で緊急事態宣言を見送り、感染についても同25日のリスク評価で「世界的リスクは低い」と評価した。このため、昨年12月から旧正月(春節)のあった1月にかけて多くの中国人が国内外を移動し、危機感の薄い世界各地に渡航した。パンデミックと無関係ではあるまい。

透明性高める調査を

 中国にWHO専門家チームが入ったのは2月下旬で、調査結果が出た同28日に世界リスクを「非常に高い」とした。既に各国が非常措置を取った後だ。

 こうした事態を繰り返さないため、決議の調査を中国の透明性向上とWHO改革につなげるべきだ。