食料輸出規制 安定供給体制を揺るがすな
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ロシアなど一部の国々は小麦やトウモロコシなどの輸出を制限し、食料を囲い込む動きを見せている。
感染収束のためにも、各国・地域は協調して食料の安定供給を維持すべきだ。
ロシアなど十数カ国で
ロシアは当面6月まで小麦や大麦、トウモロコシなどに輸出枠を設けた。このほか食料の輸出規制は、ウクライナやカンボジア、エジプトなど十数カ国で見られる。感染拡大で経済活動が停滞する中、生産量の落ち込みなどを懸念した動きだろう。
しかし輸出規制が続けば、途上国では食料不足が生じかねない。安定供給体制を揺るがすことがあってはならない。
特にアフリカは、もともと食料の安定供給で脆弱(ぜいじゃく)性を抱えている。国連食糧農業機関(FAO)によると、アフリカでは新型コロナの感染拡大の前から、約2億5000万人が十分な食料を得られていなかった。サハラ以南のアフリカでは人口の25%が栄養不良に陥っている。
さらにアフリカや中東などでは、バッタが大量発生し、農作物を食い荒らす被害が広がっている。FAOは4月、東アフリカの国々で既に2000万人が食料不足に直面し、イエメンではさらに1500万人が同様の事態に陥ると警告した。
各国政府や国際機関による駆除は追い付かず、収束の見通しは立っていない。これに輸出規制が加われば、食料危機の一層の深刻化は避けられない。
日米欧や中国、ロシアなど20カ国・地域(G20)の農業担当相は4月、「世界の食料安全保障の確保に向けて緊密に協力する」と明記した閣僚声明を発表。テレビ会議では輸出規制などを避けることで合意した。各国は不当な規制を回避し、途上国への食料支援にも尽力しなければならない。
日本は現在のところ、輸出規制による大きな影響は受けていない。小麦粉に関しては、日本国内で消費される大半が米国やオーストラリアなどから輸入しているもので、国内需要の2カ月相当分が備蓄されている。ロシアなどの輸出規制で直ちに困るわけではない
ただ日本の食料自給率は、消費者のコメ離れや人口減少などを背景に、2018年度で37%にとどまる。小麦や大豆の9割は輸入に頼り、飼料用のトウモロコシもほぼ全てを海外に依存しているため、海外からの輸入が減ると国内価格が上昇しやすい。新型コロナの感染拡大が長引いた場合、日本の輸入依存度が高い国に輸出規制が広がる懸念も残る。
自給率アップを着実に
食料の安定供給をめぐって、海外要因に左右されにくくするには、食料自給率を高めていくことが欠かせない。
政府は今年3月、30年度の自給率を45%とする「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。
この計画では、ドローンなど新技術を活用した生産性向上で自給率アップを図る。また、農林水産物・食品の輸出を5兆円に拡大。これらによって生産基盤を維持・強化するという。こうした取り組みを着実に進める必要がある。