特別寄稿 新型肺炎拡大阻止 台湾の経験を生かそう

台北駐日経済文化代表処代表 謝長廷

「人人感染」情報に早急対処
WHOへの参加は不可欠

 中国武漢で発生した新型コロナウイルス肺炎の感染流行が、瞬く間に世界の半数を超える国々に広がり、この新型肺炎をいかに食い止めるかが各国共通の課題となっている。その中で、台湾の新型肺炎対策が非常に効果的であったとして、国際社会から注目されている。

謝長廷

 

 台湾は武漢の病院で今までと異なる肺炎が発生しているという非公式な情報を早くから把握し、1月上旬に「人から人への感染」の疑いが高いという重大性を察知して、政府の会議を開き、対策を検討していた。それが結果的に台湾の素早い対応につながった。

 陳建仁副総統は公衆衛生の専門家であり、2003年には行政院衛生署長としてSARS(重症急性呼吸器症候群)の対応に当たった経験を持つ。台湾は中国の反対により世界保健機関(WHO)に未加盟であり、WHOからSARSに関する情報がもらえず、大きな犠牲者が出た苦い経験がある。台湾はその教訓を踏まえ、WHOへの参加の必要性を国際社会に訴えると同時に、独自に感染症対策も進めてきた。

 今回の新型肺炎の対応に当たっては陳時中・衛生福利部長が中央感染症指揮センターの指揮官を務め、厳格な水際対策や確実な隔離、感染流行地との渡航制限、マスク不足への対処などを先手先手で次々と打ち出した。また、毎日記者会見を開いて情報公開することでパニックを防いだ。これらが功を奏し、台湾における感染者のほとんどは感染経路が把握されており、大規模な市中感染の発生を食い止めることができた。また、デジタル政策担当の唐鳳・政務委員の働き掛けでマスク販売在庫マップのアプリが開発・配布されるなど、デジタル技術の応用が防疫に役立った。

 感染拡大を食い止めるのは時間との戦いであり、世界が一致団結して取り組む必要がある。ところがWHOが1月末に緊急会合を開いた際、台湾は呼ばれなかった。台湾と共通の理念を持つ日本や欧米諸国などの強い働き掛けにより、2月のWHO緊急会合には台湾も専門家が個人としてはオンラインで出席することができたが、実質的な意見交換や情報共有は限られ、十分ではなかった。台湾はウイルス対策の最新情報を世界各国と同時に取得して対策の足並みを揃(そろ)える必要があり、また、われわれの経験も世界に伝えたい。そのためにはWHOと情報を直接やりとりできることが重要であり、WHO各会合、メカニズム、活動への十分な参加、さらにはWHO年次総会へのオブザーバー参加が必要不可欠である。

 飛行機などの国際輸送機関もウイルスの感染を拡大させる媒介になっていることから、国際防疫を強化するにはICAO(国際民間航空機関)とも緊密に連携していく必要がある。台湾はICAOについても同様に未加盟である。台湾はアジア太平洋の交通の中枢であり、正しい情報を共有し、防疫を促進するためにも台湾のICAOなどの国際機関への参加も必要である。

 台湾は今後も引き続き、日本をはじめ世界各国と力を合わせながら、世界の人々の健康を共に守るため、一日も早い新型肺炎感染流行の終息に向けて取り組んでいきたい。