イスラエルで今年、大規模戦争の可能性
シンクタンクが警鐘
イスラエルの主要シンクタンクの一つであるテルアビブ大学の国家安全保障研究所(INSS)が、イランの大胆かつ攻撃的な行動の増加に伴い、2020年にイスラエルの北部国境沿いで大規模な戦争の可能性が高まっていると警告した。ガザ地区でも戦争が勃発する可能性は大きいという。(エルサレム・森田貴裕)
北部国境沿いで武装勢力増加
イラン核開発も脅威に
INSSは毎年、イスラエルが直面する脅威の「戦略的評価」と脅威から守るために取るべき措置を準備し、これらの研究結果を大統領に提示する。これには、種々の安全保障、政治、外交要因に照らし合わせた「戦争の可能性の高まり」の警告が含まれる。
イスラエルのリブリン大統領は6日、元軍事情報部長であるヤドリンINSS所長から評価報告を受けた後のスピーチで、「イランの脅威に対処するため手を取り合って一致団結するのではなく、われわれは非常に深刻な内部の混乱状態にある」と述べ、1年以上にわたり機能する政権がないという政治的麻痺(まひ)の最悪の時期にこの脅威に直面するという現状を嘆いた。
INSSによると、イスラエルの北部国境地域には、イスラエルに対抗するためにシリアおよびその他の地域で足場となる拠点を拡大してきたイラン、その代理組織であるレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラ、親イラン民兵が駐留している。過去1年でこれら武装勢力は増加しており、20年にイスラエルと何らかの形で直接衝突することになる可能性が高いと指摘する。イスラエル軍はこの地域で多面戦に備える必要があるとした。
このような北部国境地域でのエスカレーションが激化し全面戦争となった場合、それは06年のレバノン侵攻(第2次レバノン戦争)とは異なり、ヒズボラとの戦いは今や1国1戦線に限定されない「最初の北方戦争」であり、イラン、ヒズボラ、シリア政府、親イラン民兵など、北部国境地域すべての軍隊に対することになると警告する。
ガザ地区では、戦争が勃発する可能性は大きいが、イランやヒズボラによってもたらされるものよりもはるかに小さな脅威であると評価した。イスラエルとガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスはここ数カ月、停戦協定の交渉を行っているが、公の場で重要な議論は行っておらず、このまま停戦が達成されなければ、ガザ地区での戦争の可能性はかなり大きくなるだろうと警告した。
イスラエル軍のコハビ参謀総長は先月25日、「次の戦争では、北部であろうとハマスであろうと、激しい攻撃がイスラエル国内に向けられることを認識しなければならない。われわれは軍事的に備えなければならず、市民は精神的にも備える必要がある」と語り、それは06年の紛争よりもはるかに激しく悲惨なものになるだろうと警告した。
武装組織のロケット弾に関しては、弾頭の数と範囲、サイズ、精度がすべて向上しているという。精密誘導ミサイルは精度が高く、イスラエルの防空システムを容易に撃ち破ることができるため、将来の紛争で流れを変える可能性がある。その備えとして、ヒズボラが大量の精密誘導ミサイルを取得することを防ぐための攻撃が必要となる。イスラエル軍はこれまで、イランからヒズボラへの高性能武器の移動を阻止するためシリア領内で空爆を行ってきた。
イランは、イスラエルの領土に到達可能なミサイル開発を続けている。また、イランが昨年11月に、地下核施設でウラン濃縮活動を再開し、15年の核合意の承認レベルを超えて濃縮ウランの量とレベルを2倍にしたことを指摘し、「これらの行動は現在、交渉の一環として米国と欧州に圧力をかけるための戦略的対話の一環ではあるが、ある時点で、それは戦略的対話の領域を離れて、本当の脅威に入るだろう」と述べ、イランのウラン濃縮を警戒する。
イランの地下核施設は、調査目的の使用に限定されており、ウラン濃縮を行うことは禁止されていた。高濃縮ウランは核兵器への転用が可能となるからだ。
INSSは、イランの核開発は最も差し迫った脅威ではないが、将来的にはイスラエルに対する最も深刻な脅威であり、2020年に事態が発生する可能性が低くても、イランが核開発を決定するという極端なシナリオに備えなければならないと警鐘を鳴らす。






