ゴーン被告、日本での身柄確保に全力を
日本から逃亡した日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が、滞在中のレバノンで記者会見し、潔白を主張した。
しかし保釈中で海外渡航が禁じられているにもかかわらず、日本から無断出国したことは重大な違法行為である。無罪の主張は日本の法廷で行うべきではないのか。
レバノンで逃亡を釈明
会見では、逃亡を「自分と家族を守るための唯一の選択肢であり、正義のためだった」などと釈明した。だが、どのような理由があっても決して正当化できるものではない。
ゴーン被告は、役員報酬を隠した金融商品取引法違反や、日産の資金を還流させた特別背任の罪で起訴された。これについては「根拠がなく、そもそも逮捕されるべきではなかった」と強調した。
しかし資金還流に関しては、ゴーン被告がレバノンの関係会社から報告を受けたメールが昨秋以降、弁護側に証拠開示されていたという。被告の関与を示す重要証拠で、メールが押収されたことを知って逃亡を決意したと検察側はみている。自身への疑いが強まることを恐れて出国したのであれば、なおさら悪質である。
ゴーン被告は会見で、弁護士が同席せずに長時間の事情聴取を受け、独房に入れられて家族や友人から遠ざけられたなどと日本の司法制度を批判した。だが、拘束期間中も弁護士との接見は認められるなど一定の配慮はなされていたはずだ。
気掛かりなのは、海外でメディアを中心に同様の批判が広がっていることだ。特に、妻との接触を制限した保釈条件が槍玉(やりだま)に挙がっており、被告を擁護する記事も報じられている。
東京地検特捜部は偽証容疑で妻の逮捕状を取った。妻が証拠隠滅に関わったために接触を制限されたことを、政府は海外に向けて丁寧に説明し、理解を得る必要がある。
一方、レバノンの検察当局はゴーン被告に出国禁止令を出した。レバノン側は日本への身柄引き渡しを拒否しているが、このまま放置するわけにはいかない。日本での身柄確保のため、あらゆる外交手段を講じなければならない。
今回の事件を受け、法務省は再発防止に向けて保釈制度を見直す方針だ。被告の逃走事件は国内でも昨年、神奈川県や大阪府で相次いで発生した。
2017年には、246人が保釈中に別の事件を起こして起訴されている。また、18年末の段階で26人が実刑確定後も収容に応じず、刑の執行を逃れていることは許し難いことであり、司法制度を揺るがしかねない事態である。
米国などでは、全地球測位システム(GPS)を搭載した機器を身体に取り付けて行動を監視し、逃亡防止に一定の成果を挙げている。日本でも前向きに検討する必要がある。
出国審査の厳格化も
ゴーン被告は関西空港からプライベートジェット(PJ)で出国する際、箱に隠れて保安検査を受けなかったとみられている。国土交通省はPJでも検査を実施するよう通達を出した。出国審査厳格化も求められる。