「終わりのない戦争」は作り話

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

戦闘の主体はクルド
米軍のシリア撤収は裏切り

マーク・ティーセン

 

 トランプ大統領は、協力関係にあるシリアのクルド人を捨てるという恥ずべきことをしておきながら、それを正当化し、「私が選ばれたのは、このばかばかしい終わりのない戦争から抜け出すため」であり、この戦争で米国は「泥沼にはまり、身動きできなくなっている」と訴えた。トランプ氏の話を聞くと、米国民は、中東全域でまだ大規模な米軍部隊が戦っていると思う可能性がある。

 米国が中東に何十万人もの兵力を投入していたのはずっと前の話だ。現在はアフガニスタンに1万4000人、イラクに5000人、シリアに1000人で、3カ国で計2万人だ。それに対してドイツには3万7950人、イタリアには1万2750人、日本には5万3900人、韓国に2万8500人、計13万3000人が駐留している。スペインには3200人が派遣されており、シリアの3倍以上だ。

 ◇米軍は後方支援

 そればかりか、中東駐留米軍のほとんどは「訓練、助言、支援」のために駐留しており、戦闘は行っていない。同盟関係にある勢力が戦闘の大部分を担い、米兵は前線の後方で情報収集、作戦立案、火力支援、航空支援を行っている。17万4000人のアフガン兵、6万4000人のイラク兵、6万人のシリア民主軍(SDF)民兵を訓練し、装備を提供した。SDFの主体はクルド人で、米国の敵との地上戦を戦った。

 トランプ氏はよく、過激派組織「イスラム国」(IS)を「殲滅(せんめつ)」したと言う。だが、実際に戦ったのは、米軍特殊部隊の訓練と支援を受けたクルド人だった。中東駐留米軍の司令官を務めたジョセフ・ボーテル氏は、「SDFは4年間で、IS支配から、何万平方キロ、何百万人の人々を解放した。戦闘での死傷者は約1万1000人に上った。それに対してISで死亡した米国人は、兵士が6人、民間人が2人だ」と指摘している。

 クルド人は、戦闘の最前線に立ち、多くの犠牲者を出し、カリフ国家のISを駆逐した。しかし、テロリストは殲滅されていない。依然、何万人もの戦闘員と豊富な資金源を持つ。米国が手を引けば、復活する。オバマ政権時にイラクで既に経験したことだ。

 誰がISを止めるのか。トランプ氏はシリア駐留米軍を1000人まで削減しており、ISの封じ込めをSDFに依存している。トルコがクルド人勢力を一掃すれば、誰がシリアでISと戦うのか。誰もいない。

 トランプ氏は、この任務のために米軍を送り込む用意があるのか。クルド人を見捨てることは、終わりのない戦争へのレシピであり、終わりのない戦争を終わらせる戦略ではない。

 ◇収容所の警備手薄に

 シリアで約1万人のIS戦闘員らを拘束している収容所を管理しているのもクルド人だ。そのうち2000人は非常に危険なテロリストだ。

 クルド人が、兵力をトルコとの戦いに振り向ければ、収容所の警備は手薄になり、テロリストらが脱走する危険性が高まる。そのうちの1人が欧米でテロを実行すれば、その責任はトランプ氏にある。

 そればかりではない。クルド人が米国の支援を失えば、ロシア、イラン、アサド政権に保護を求めて接近せざるを得なくなる。その結果、イランがシリア全域を支配し、中東で新たな戦略的拠点、イスラエル攻撃の基地を獲得することになる。

 トランプ氏は、イラン封じ込めを中東政策の中心に据えている。クルド人を見捨てれば、イランがかつてないほどに力を付け、イスラエルへの危険が増し、イランの攻撃に対抗するため、米兵を増派する必要が出てくる。

 ◇同盟相手を裏切るな

 米国が「終わりのない戦争」を戦っているという訴えは、作り話だ。シリア、イラク、アフガニスタン駐留米軍はそれほど多くない。戦闘には関わらず、武器を持たせ、訓練し、米国のために戦わせている。これは正しい戦略だ。

 だが、シリアで同盟相手が殺されるのをトランプ氏は放置している。そのような中で、イスラム過激派と戦う米国への支援を誰が引き受けるだろうか。同盟相手を見捨てながら、同時に支援を受けるということはありえない。米兵らに「終わりのない戦争」を戦わせたくないのなら、同盟相手を裏切ってはならない。

(10月11日)