米銃乱射事件、人種間の分断に歯止めかけよ
米南部テキサス州エルパソで白人の男による銃乱射事件が発生し、20人以上が死亡した。有色人種を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)とみられている。
身勝手極まりない動機で多くの無辜(むこ)の人たちが殺傷された。強い憤りを禁じ得ない。
メキシコとの国境沿いで
男は、ショッピングモール内の大規模小売店ウォルマートの店内などで、殺傷力の高い半自動小銃を乱射した。店内は週末の買い物客でにぎわっていたというが、犠牲となった人たちはどれほどの恐怖と苦痛を感じたことだろうか。卑劣な犯罪を断じて許すことはできない。
米メディアによると、男が犯行前、インターネット上に投稿したとみられる犯行声明には「この攻撃は、ヒスパニックによるテキサス侵攻への対応だ」との内容があった。エルパソはメキシコ国境沿いにあり、ヒスパニック系移民が8割に上るほか、買い物や仕事などで両国間の往来は激しく、事件ではメキシコ人も亡くなった。男は移民や外国人が多い地域を狙って凶行に走ったと考えられる。
米国では中西部オハイオ州デートンでも銃撃事件があり、銃撃犯を含む10人が死亡した。この事件の犯行動機は不明だが、いずれにせよ、多くの人たちが銃の犠牲になったことは痛ましい限りである。
トランプ大統領は「この国でヘイトは居場所がない」と非難し、憎悪犯罪を許さない立場を強調した。ただ、銃規制には消極的な姿勢を示している。
米国ではこれまでも銃による大量殺人が繰り返されてきた。16年6月にはフロリダ州オーランドのナイトクラブで、男が銃を乱射して49人が犠牲となった。17年10月にネバダ州ラスベガスのホテルから男がコンサート会場に向けて銃を乱射し、58人が死亡した事件も記憶に新しい。このほかにも銃乱射事件は数知れない。
米国憲法修正2条は「国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない」と定めている。今後も米国の伝統の一つとして銃社会を維持するのであれば、今回のような残虐な犯罪を防ぐための手立てを講じる必要がある。
憎悪犯罪を防ぐには、米国で進む人種間の分断に歯止めをかけることも欠かせない。米国の建国の父たちは、多様な背景を持つ人々が、独立宣言や憲法でうたわれた自由や平等、小さな政府といった建国の理念を中心に一つにまとまっていくことを目指した。
ところが最近は「多文化主義」の広がる傾向が強まり、人種間の対立を助長する結果となっている。米国は建国の精神に立ち返り、一体感を取り戻すことが求められる。
克服への道筋付けよ
テキサスの事件の容疑者が用いた「侵略」という表現は、トランプ氏が昨年の中間選挙の集会で不法移民の流入に対してたびたび使っていたもので、野党民主党からは事件と関連付ける見方も出ている。
もちろん、不法移民は処罰されなければならない。ただ、トランプ氏も誤解を招く言動は慎み、米国民の分断を克服する道筋を付けるべきだ。