10月にボリビア大統領選、現職のモラレス氏が憲法無視して4選出馬

独裁化恐れる有権者

 今年10月に南米ボリビアで大統領選挙が実施される。現職の反米左派エボ・モラレス大統領(56)は先月18日、中部カラスコ県チモレで4選を目指して大統領選挙に出馬することを表明した。しかし、4選出馬には批判の声も上がっている。(サンパウロ・綾村 悟)

貧困層からは根強い支持

 コカ栽培農家(コカ栽培はボリビアでは合法)だったモラレス氏は、農民運動を通じて政界入りし、1997年に下院議員に初当選した。2005年の大統領選挙に出馬すると、ブラジルやアルゼンチンで次々に左派政権が誕生した流れを受けてボリビア初の先住民系大統領となった。

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 モラレス氏の政治姿勢は、南米きっての反米左派として知られたキューバの故カストロ議長やベネズエラの故ウゴ・チャベス大統領に近い。独裁政治で国際的な非難を浴びているベネズエラの現マドゥロ政権に対しても、中露やキューバなどと共に支持を表明している。

 モラレス氏は、天然ガスやリチウムなど資源の国有化や先住民保護、貧困層対策で国民からの高い支持を得てきた。天然ガスの国有化では、軍隊を投入して外資の施設を接収、深刻な外交問題になるところだったが、ボリビアの天然ガスに大きな権益を持っていた隣国ブラジルの左派系ルラ政権が譲歩した。

 天然ガスの国際価格は2・2倍以上上昇し、ボリビアの経済成長の原動力となった。モラレス氏就任以降の成長率は平均で5%弱と経済面では南米の優等生だ。

 天然ガスなどの収入も手伝い、モラレス氏は貧困層への社会支援を拡大した。それにより、極貧層は38%から17%へと半減、最低賃金は4倍近く上昇した。失業率も04年の14・5%から14年には7・5%と劇的に改善した。

 ボリビアでは本来、大統領の再選は憲法で禁止されていたが、モラレス氏は09年、高い支持率を背景に国民投票を経て憲法を改正、再選を可能にした。その後も、「1期のみの再選を認める」とした改正憲法の解釈を拡大、「憲法改正後の当選は1回目として数えられるはずだ」と主張し、14年には3期目も実現させた。

モラレス大統領

南米ボリビアのモラレス大統領=3月15日、アテネ(AFP時事)

 そのモラレス氏が政治的な盟友としていたのが、ベネズエラのチャベス氏だった。チャベス氏は自身の連続再選を可能とするために、国民投票などで憲法の改正を続けた。後任のマドゥロ大統領も自身に有利となるように選挙制度を恣意(しい)的に活用し、民主主義の根幹である公正な選挙のあり方を無視している。

 モラレス氏は16年、4選を目指して憲法の再選規定撤廃を求める国民投票を実施した。しかし、投票は反対が51%で否決され、同氏の4選は閉ざされたように見えた。

 ところが、モラレス氏は昨年末、政権寄りの判事が多い最高選挙裁判所に4選出馬を認める判断を下させた。裁判所の判断は、実質的にモラレス氏の無期限再選を可能にしたことになる。

 これに対し、ボリビア国内では、モラレス氏の4選出馬を批判する動きも活発になっている。国内の主要都市では反政府デモが幾度も行われており、特に野党基盤が強い南部の商業都市サンタクルスでは数万人規模のデモも行われた。

 ボリビアの有権者が憂慮しているのは、ベネズエラのような独裁化がボリビアでも進み、民主政治が失われることだ。経済が崩壊したベネズエラのニュースはボリビアでも連日のように詳細に報じられている。さらに、中国系企業の公共工事に関連したモラレス氏のスキャンダルが地元メディアで報じられており、同氏の支持率は低下傾向にある。

 ただし、最新の世論調査では、モラレス氏の支持率は32%と、右派のメサ元大統領と並んでいる。大統領選は決選投票までもつれることが確実視されるなど、モラレス氏は依然、貧困層と先住民から根強い支持を得ていることも事実だ。

 憲法を無視して4選出馬を表明したモラレス氏を有権者がどのように判断するか。ベネズエラの政情も合わさり、10月の大統領選挙は中南米で最も注目を集める選挙の一つとなっている。