ブラジルのボルソナロ大統領の支持率低下

国民に景気回復の実感なし
高すぎる期待に追いつかず

 ブラジルの民政化後、初の本格的な保守派大統領として就任したジャイル・ボルソナロ氏の支持率が低下している。財政再建に向けた政策は進んでいるが、現政権に早急な景気改善を求めてきた世論の期待も大きかったのが原因だ。
(サンパウロ・綾村悟)

次の山場は年金改革か

 ブラジルの世論調査機関IBOPEは先月24日、最新の世論調査結果を発表した。ボルソナロ大統領の職務に対する評価を「良い」と答えたのは35%にとどまり、今年1月の49%から大幅に下落した。一方、「悪い」と評価したのは27%に上り、1月の11%から大きく上昇した。就任3カ月後の支持率としては、1985年の民政復帰後に就任した大統領では最低だ。

ボルソナロ大統領

ブラジルのボルソナロ大統領=4月11日、ブラジリア(AFP時事)

 ボルソナロ氏は「世論調査結果に一喜一憂する時間はない」としているが、支持率は国会対策に影響を及ぼす可能性がある。

 昨年10月の大統領選では、軍事政権礼賛や女性蔑視など過激な発言にもかかわらず、元軍人のボルソナロ氏には保守派を中心に熱烈な支持が集まった。その背景には、長く続いた左派系の労働党(PT)政権下で保守派にたまった不満が爆発したことに加え、深刻な政治汚職や景気低迷に対し、変化を求める声が中道層や一部左派層にも広がったことがあった。

 一方、ボルソナロ氏は、当選後から今年1月の就任にかけて、省庁の統合などを含めた財政削減案や大胆な閣僚人事を打ち出すことで人気を維持していた。労働党政権は、公務員数の大幅な拡大を通じて失業率の改善などを図ってきたが、そのことが政府債務を拡大させてきた。新政権は省庁再編で2万人もの公務員削減を断行した。

 さらには、国営企業や空港などの民営化にも積極的に取り組んでおり、空港事業などで外資の呼び込みにも成功している。株価も今年に入ってから5%近い上昇を保っている。

 国民が新政権に最も大きな期待を寄せているのが、経済成長と治安改善だ。特に経済成長に関しては、フォーリャ紙が行った世論調査で、65%の有権者が「新政権発足後の数カ月で景気回復を実感したい」と回答、高い期待を寄せてきた。

 こうした期待の声に応えるかのように、ボルソナロ氏とゲデス経済相は、民営化や財政改革によって経済に活力を取り戻そうとしてきたが、経済成長の予測は下方修正が続いているのが現実だ。

 今年1月の時点では、ブラジル中央銀行は国内総生産(GDP)の伸び率を2・6%と予想していたが、4月29日の発表では1・7%に、今月6日には1・49%にそれぞれ下方修正した。昨年、11%以上あった失業率も大きく改善はされておらず、国民の間に景気回復の実感は少ない。

 さらに、経済成長を取り戻すための要とされている年金改革法案の行方も不透明だ。ブラジルの年金制度は世界的に見ても手厚く、年金改革抜きでは健全な財政収支とそれに伴う経済成長を取り戻すことは不可能とされている。

 年金改革には憲法改正が必要であり、国会で5分の3の賛成が必要だが、ボルソナロ氏が所属する与党・社会自由党(PSL)は少数政党だ。野党との連携が欠かせないが、強引なボルソナロ氏の政治手法には批判の声も上がる。

 また、年金改革は有権者から反発を招きやすいだけに、国民が景気回復を実感していない中での改革はリスクが伴う。全国工業連盟のフォンセカ氏は、「(早期の)景気回復を有権者が実感できていないことが支持率低下につながっている」と、有権者の期待が大き過ぎたことが現政権の低評価の理由だとみている。