米民主党、「妊娠中絶」でも左傾化

州知事が「後期」認める動き相次ぐ

 米国で国論を二分する妊娠中絶の問題をめぐって、野党民主党は、より極端な立場を取り始めた。民主党が知事の州で出産直前までの後期妊娠中絶を認める動きが広がる中、同党の2020年大統領選の有力候補も支持を表明。これに、トランプ政権や共和党は、大統領選や議会選も見据えつつ、非難を強めている。(ワシントン・山崎洋介)

共和は「乳児殺害」と非難

 今年1月、州で子宮外でも胎児の生存が可能とされる後期妊娠中絶を認める動きが相次いだ。

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今年1月、米連邦最高裁前でデモを行う賛成、反対の両派(UPI)

 同月下旬、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事(民主党)は、妊娠24週以降も中絶の権利を保護する法案に署名した。これをクオモ氏は「進歩主義的価値観を信じる人にとって歴史的勝利だ」と意気揚々と宣言。その高揚感からか、米同時多発テロで倒壊した跡地に建てられた「ワン・ワールドトレードセンター」などニューヨークのランドマークを、ピンク色の照明で輝かせるという指示まで出した。

 その数日後に今度はバージニア州のラルフ・ノーサム知事(民主党)が「乳児殺害」を容認したとして物議を醸した。同州議会の民主党議員らは、出産の最中も含め妊娠中絶を可能にする法案を提出。これに賛成するノーサム氏は、ラジオインタビューで、子供が中絶を生き延びた場合、「赤ちゃんは母親と家族が望めば蘇生を受ける。その後で医師と母親でどうするか話し合うだろう」と、出産後に乳児を殺害する可能性を示唆するかのようなコメントをしたのだ。

 当然のことながら、これは共和党議員らから批判の集中放火を浴びた。特にペンス副大統領は、ナショナル・レビュー誌への寄稿で、「これは乳児殺害であり、道徳上非難されるべきであり悪だ」と訴えた。

 こうした中、共和党のベン・サス上院議員は、中絶を生き延びた乳児の保護を医師に義務付ける「中絶生存者保護法案」を提出したが、民主党議員の大部分が反対に回ったため、法案を採決に持ち込むために必要な60票を得られなかった。医師に後期妊娠中絶をやめさせることが法案の真の狙いとの見方から、「プランド・ペアレントフッド」など中絶擁護団体が批判していたことが背景にある。

 同法案に反対した議員には、バーニー・サンダース氏やカマラ・ハリス氏など大統領選に立候補を表明しているすべての議員が含まれた。こうした「中絶擁護」の流れに遅れまいとするように、有力候補の一人とされるベト・オルーク前下院議員も今月、後期妊娠中絶を支持する考えを表明した。

 クリントン元大統領がかつて人工妊娠中絶は「安全で合法的、そしてまれ」であるべきだと述べたように、以前の民主党のスタンスは、中絶を認めつつも抑制的なものだった。今では、党の左傾化が進む中、中絶をめぐっても「女性の選択する権利」を過度に支持する傾向を強めている。

 妊娠中絶については賛成と反対が拮抗しているが、妊娠後期の中絶を認める人は少数だ。2018年のギャラップ社の世論調査によると、わずか13%にとどまる。予備選には有利となっても、大統領本選挙や議会選で、民主党に不利に働くことは必至だ。

 トランプ大統領は2月の一般教書演説で、昨年は取り上げなかった中絶問題に言及し、後期人工妊娠中絶を禁止する法案を成立させるよう議会に要求。その後のツイッターでも「中絶に関する民主党の立場は今は非常に極端で、彼らは出産後に赤ん坊を処刑することさえ気にしない」と批判のボルテージを上げている。

 こうした批判は中絶に反対するトランプ氏の支持基盤を活性化させ、再選に向けプラス材料となるだろう。共和党は来年の下院選での多数派奪回に向け、昨年の中間選挙で失った穏健な女性票を取り込むため妊娠中絶で攻勢をかけるとみられ、民主党の穏健派は党の路線に懸念を強めている。