左派台頭で分裂する民主党

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

ペロシ氏、大統領弾劾不支持
現実的政策の推進主張

マーク・ティーセン

 

 民主党のペロシ下院議長は「弾劾を支持しない」と発表し、左派から反発を受けた。ペロシ氏は、トランプ大統領を守ろうとしたわけではない。常軌を逸した非主流派から党を守ろうとしているだけだ。だが、それもますます困難になっている。

 ペロシ氏はこの60年間で、一度離れた議長のポストに復帰した初めての人物だ。しかし、今、その下にいる民主党の大多数は、2007年当時とは大きく違っている。議長の職を取り戻した18年の中間選挙以降、民主党は軌道から外れてしまった。

 まず、オカシオコルテス下院議員が、「グリーン・ニューディール」を発表し、党はその問題にかかりきりになった。

 実行するには90兆㌦以上もの政府予算増額が必要で、国民皆保険、政府による雇用保障、無料の教育、医療休暇、職業訓練、引退後の生活の保障を全国民に提供する。最低所得保障で、働く「気のない」人々を支援することを主張し、不評を買った。この先にまだ、エネルギーと環境に関する政策がある。

◇社会主義を支持

 問題の多いこれらの発表を受けてペロシ氏は、この計画を「グリーン・ドリームとでも呼ぶべきもの」と一蹴を試みた上で、「いくつかの、ひょっとすると数多くの提案の中の一つ」と断言した。ペロシ氏は、もっと穏やかで、現実的な政策で、オバマケア(医療保険制度改革)を強化し、処方薬の価格を下げ、インフラを整備し、銃規制法案を通過させるなどの従来の民主党の主要政策を推進することを望んでいる。しかし、民主党議員の多くはペロシ氏と違い、完全な社会主義を熱心に支持している。民主党大統領候補のほとんどは、グリーン・ニューディールに何かしらの支持を示し、米経済を社会主義者が乗っ取ることを、民主党の政策課題の中心に据えている。

 ひどい話だ。しかし、ペロシ氏が対処しなければならない問題はまだある。もう一人の左派の造反者イルハン・オマル下院議員だ。オマル氏の反ユダヤ発言で、憎悪に満ちた反ユダヤ感情が左派を支配していることが露呈した。オマル氏の反ユダヤ主義を非難する法案は内部から強い反対に遭い、ペロシ氏は、内容を弱め、「イスラム教徒差別と少数派への敵対感情」などあらゆる形の憎悪を非難する法案に変更せざるを得なくなり、意味のないものになってしまった。

 その次のペロシ氏の仕事は、左派の間で強まっている、自殺行為ともいうべき弾劾への動きを封じることだった。トランプ氏が16年の大統領選に勝つためにロシアと共謀し、法を犯したことを示す明確な証拠をモラー特別検査官が見つけ出さない可能性があることを見越してペロシ氏は、「説得力のある、圧倒的で、両党が認めるものがなければ、その道を進むべきでないと思う」と表明した。だが、「最低の男を弾劾」するために議員になると誓っていたトレイブ下院議員は聞き入れず、弾劾手続きを開始する法案を提出する予定であることを明らかにした。

◇弾劾への壁高く

 ペロシ氏は、弾劾を進めれば、民主党が分裂することを知っている。下院すら通過しない可能性もある。通過したとしても、上院の3分の2が、ロシアとの共謀以外を理由にトランプ氏弾劾に賛成票を投じる可能性はゼロだ。

 弾劾に失敗すれば、トランプ氏の支持基盤は勢い付き、支持率は上がり、18年の中間選挙で下院奪還のために共和党から奪い取った都市部郊外に住む有権者は離れていってしまう。

 最も重要な要因は、自身の目指す政策から民主党が逸れてしまう可能性があることをペロシ氏が知っていることだ。ローリング・ストーン誌で「時間と資源を効果的に使えるかどうかということだ」と話している。

 ペロシ氏は最近の内々の会合で民主党の下院議員らに、「引きずり下ろしたいのか、国民を元気づけたいのか」と聞いたと報じられた。「抵抗勢力」の答えは明らかだろう。「引きずり下ろせ」だ。

 ペロシ氏がしようとしているのは、抵抗以上のことだ。支配することを目指している。法律を作ることを目指している。そのために民主党は、20年に上院と大統領のポストを奪還する必要がある。

 オカシオコルテス-オマル-トレイブ派は、社会主義路線、反ユダヤ主義、弾劾を追及することでこの戦略を台無しにすることを心に決めているように見える。そうなれば、トランプ氏は弾劾されないばかりか、再選される可能性も出てくる。

(3月15日)