ブラジル新政権、期待が反発上回る現状
南米の大国ブラジルで今月1日、民主化後初の本格的な保守政権が誕生した。過激な発言や政策から「極右」と呼ばれるジャイル・ボルソナロ大統領(63)だが、ブラジル国内での期待度は決して低くない。(サンパウロ・綾村悟)
相次ぐ経済政策で株価更新
対中では実利主義も
ブラジルのサッカー界を震撼(しんかん)させる出来事があった。サッカー界の有力スポンサーだった国営の連邦貯蓄銀行(CAIXA)が8日、支援しているすべてのクラブのスポンサーから降りる決定を下したことだ。同行がスポンサーになっているクラブは25もあり、昨年だけで664万レアル(約20億円)が支払われていた。
ボルソナロ氏は昨年12月、「CAIXAはばかげた額の広告費を使っている」と批判。この発言は反論を浴びたが、ゲデス新中央銀行総裁は「国営企業の経費はすべて見直す」と断言、サッカー界からのスポンサー撤退が決定した。
ブラジルは、世界で最も公営企業が多い国の一つだが、民営化を進めるボルソナロ氏は公営企業100社を売却すると言及、売却益で政府債務を圧縮する方針を示した。
ブラジル財政は深刻な状況に陥っており、年金改革も欠かせない状況だ。改革案では、年金受給開始年齢を現在の60歳から62歳に引き上げようとしている。
ただ、年金改革は有権者の反発を受けやすい。大統領の支持率が高いとはいえ、少数与党の社会自由党(PSL)は連立を組んでおらず、法案の国会通過は容易ではない。
一方、新政権が相次いで打ち出す経済政策は、肯定的に受け止められている。世界的な株価低迷にもかかわらず、ブラジル株式相場は新政権下の2週間で6%以上上昇、史上最高値を更新している。同時期で最も株価を伸ばした国の一つだ。株価を支えているのは国内投資家とされ、新政権に対する期待感がうかがえる。
海外では、ボルソナロ氏に対して否定もしくは懐疑的な報道が多く、ブラジルがファシズムや軍政に陥るのではないかとの懸念も出ている。
だが、ブラジルの有権者は、左派系の労働党政権下において、汚職の蔓延(まんえん)や深刻な景気後退、失業率の悪化、凶悪犯罪の増加など社会不安を実感してきた。さらに、隣国ベネズエラは、世界有数の産油国にもかかわらず反米左派政権下で経済が崩壊、ブラジルやコロンビアなどに数百万人の経済・政治難民が流れ込んでいる。左派政権の負の側面を間近に見てきたわけだ。
このため、ブラジル国民の声を拾うと、ボルソナロ政権に対する期待は驚くほど高い。「これまでの政治にはうんざりだ。ボルソナロ氏に期待している」(タクシー運転手・35歳)、「汚職がこの国を駄目にした。規律を求める新政権を支持する」(中小企業経営者・50歳)といった声が聞かれた。
一方、外交では親米・反共が基本路線だ。トランプ米大統領とはソーシャルメディアのやりとりを通じて親しさを強調する一方、左派政権が関係を深めたキューバやベネズエラに対しては厳しい態度を取っている。
ただ、大豆や鉄鉱石の重要な輸出先でもある中国に対しては、経済を優先する実利主義的な対応を示している。これに対し、中国の習近平国家主席も「実利的な関係を求めたい」との声明を出している。
イデオロギー色の強い言動が強調されがちな新政権だが、今後は有権者が実感できる経済成長や治安改善を実現できるかどうかが評価を左右する。新政権の支援者も「ブラジル人は誰に対しても公然と批判できる強さを持っている。新政権を無条件に支援することはない」(牧師・55歳)と、ボルソナロ氏の手腕を注視している。