迫りくる米中間選挙、現・前大統領が異例の舌戦
トランプ批判、共和党に逆風
筑波学院大学名誉教授 浅川 公紀
米中間選挙の投票日が、11月6日に迫っている。11月の中間選挙の結果は、これまでになく米国の今後に大きな影響を及ぼす。トランプ大統領もオバマ前大統領も、この選挙の歴史的重要性を認識し、それぞれ共和党、民主党のための本格的な選挙運動に乗り出している。
トランプは9月からの選挙終盤戦で40州以上を遊説して回るスケジュールを組んでいる。多忙な大統領が、与党の議会選のためにこれほど集中的な応援を行うのは異例だ。共和党は、2016年大統領選でトランプが勝利した州全てで議席を死守することを目指している。
一方、オバマは9月7日、地元シカゴのあるイリノイ州の大学での演説を皮切りに、全米遊説活動を開始した。
オバマは「トランプ大統領は政治家が煽(あお)ってきた怒りに付け込んでいる」「分断と憤怒と妄想の政治が共和党を覆っている」と演説の多くをトランプ批判、政権批判に費やし、民主党候補への投票を訴えた。前大統領が現職の大統領を公然と批判するのは異例なことである。
オバマは2017年1月の大統領退任後、目立った活動を控え、表舞台に出ることを避け、トランプ批判など政治的発言を封印してきた。環境保護、医療保険改革、移民などの政策をトランプが、ことごとく覆すのを我慢して静観してきた。心の中に蓄積されてきたトランプへの批判が一挙に堰(せき)を切って噴出している。
トランプもオバマを批判する発言で応酬し、舌戦を繰り広げている。8月だけでも20回の選挙集会、資金集めパーティーに顔を出し、好調な経済や不法移民対策を前面に打ち出す演説を行っている。両氏の応援演説の効果は不明確である。不倫、口封じ疑惑など一連の不祥事で、トランプの人気に陰りが出ているが、民主党も全国的に左旋回しており、オバマに代表される民主党のリベラル路線から有権者が離反する傾向がある。トランプの遊説での暴言が無党派層の共和党離れを招き、民主党候補に有利に働くという指摘もある。
米大統領選でも中間選挙でも、有権者が最も関心を持つのは、家計に直接影響する経済の現状、経済政策である。共和党が議会を通じて、17年12月に税制改革法を成立させ、9月10日には税制改革による所得税引き下げの恒久化を含む新たな減税策を発表した。トランプは米経済の好況を繰り返し強調しており、選挙の勝利に結び付けようとしている。減税策を通じて景気を刺激させ、さらに経済を拡大しようとする考えである。
中間選挙の投票日を前に、トランプと共和党に不利な材料が多く出てきている。一つは、9月11日に発売されたワシントンポストの編集幹部ボブ・ウッドワード著の『恐怖』が現在、大きな話題になっていることだ。ウッドワードは1973年に表面化したウォーターゲート事件で相棒記者のカール・バーンスタインと共に調査報道を進め、ニクソンを大統領辞任に追いやった著名ジャーナリストである。今回は、ホワイトハウスの内部スタッフや周辺の政府高官に徹底取材し、トランプ政権の奥の院の混乱状態を暴露している。
ウッドワードはトランプにも直接取材を試みたが、実現しなかった。トランプも流石(さすが)に本の影響力を無視できないと思ったのか、本の執筆が終わった後になってウッドワードとの電話インタビューに応じ、ダメージコントロールに努めた。
激戦地区の選挙でキャスチングボートを握る中間層や無党派層、共和党穏健派のトランプおよび政権についてのイメージは悪化し、かなりの否定的影響が出ることは避けられそうにない。
9月5日付の米紙ニューヨークタイムズに、ホワイトハウス内でトランプ大統領の「無謀」かつ「非道徳的な」リーダーシップに対する抵抗運動が行われているとする匿名の米政府高官による論説が掲載され、マスコミや一般国民の大きな関心を引き付けている。この論説を誰が書いたかについても関心が高まっており、ペンス副大統領をはじめ政権の中枢にいる側近が相次いで自分ではないという否定の声明を出した。逆に言えば、ペンス副大統領などの側近中の側近がトランプに対して政権の内幕を暴露する裏切り行為をしてもおかしくないほど、政権内が混乱しているということだ。
半面、トランプの保護貿易主義が不確定要因を生み出してはいるが、米経済は好況が続いている。米経済の好況がマイナス要因を打ち消して余りある効果を発揮し、共和党のプラスに働けば中間選挙の歴史的なパターンが打破されるかもしれない。
中間選挙の歴史的パターンとは、新しい大統領が就任して最初の中間選挙では大統領の政党(与党)が上院、下院両方で大幅に議席を減らすというものだ。米国の過去の歴史において、このパターンが打破されたことは2回しかない。特に大統領の支持率が50%を切っている場合は、議会での与党の議席減は避けられないと言われる。トランプの支持率は40%前後だから、この歴史的パターンを打破することは容易ではない。
ただトランプの場合、2016年の大統領選でも世論調査で予測できない結果になっており、中間選挙の結果はぎりぎりまで目が離せない。(敬称略)