米司法省、北朝鮮ハッカー訴追

サイバー捜査能力が向上

 米司法省は6日、米映画会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)などへのサイバー攻撃に関与したとして北朝鮮のハッカー、パク・ジンヒョク容疑者を訴追したことを明らかにした。それに伴って、同省が発表した告訴状には、ハッカーの手口が詳述されており、専門家はサイバー攻撃の犯人を特定する米国の捜査能力が大幅に向上したと指摘している。(ワシントン・山崎洋介)

告訴状で手口を詳述
米政府の強い姿勢を示す

 北朝鮮は近年、サイバー攻撃能力を急速に高度化させている。今では「世界で最も洗練されたハッカー集団の一つとなった」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)とも指摘され、その脅威は高まっている。

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2014年12月、ニューヨークのタイムズスクエアで米映画会社へのサイバー攻撃に関するニュースを伝える電光掲示板(UPI)

 司法省によると、訴追されたパク容疑者は、北朝鮮政府が支援するハッカー集団「ラザルス」に所属し、2014年には北朝鮮を風刺した映画の配給を予定していたSPEに対する大規模なサイバー攻撃に関わった。

 また、16年にバングラデシュ中央銀行から8100万㌦がサイバー攻撃で奪われた事件や昨年5月に世界的規模で被害が拡大したコンピューターウイルス「WannaCry」作製にも関与したとされる。

 司法省は今回、179㌻にもわたる告訴状を公表した。そこにはフリーメールやソーシャル・ネットワーク・サービスのアカウントを駆使したパク容疑者らのハッキング手口が図解入りで詳しく説明されている。

 ハッカーの策略や技術を明らかにしたこの告訴状について、専門家はサイバー攻撃の犯人を見つけ出す米国の能力が大きく向上していることを示すものだと指摘する。

 米セキュリティーソフト大手、シマンテックのエリック・チェン技術部長は、政治専門紙「ザ・ヒル」で、「5年前は米国にとってサイバー攻撃の背後にいる人物を特定するのは困難だったかもしれないが、今では大きなハードルではなくなったことを示している」との認識を語った。

 ただ、今回の訴追によって今後のサイバー攻撃を抑止するのは難しいとの見方が強い。手口を公表したことをきっかけに、ハッカー集団が新たな手法を再構築することも予想される。

 それでも、今回の告訴は、サイバー攻撃を取り締まる米国の強い意志の表れだと受け止められている。

 司法省元職員で現在はサイバー問題を担当する弁護士のルーク・デムノスキー氏は、ワシントン・ポスト紙に「ハッカーを特定できる米国の能力を示そうとしていることは明らか」だと指摘。その上で、外国のハッカーたちに対しては「米国が特定しようと思えば、匿名のままでいることは難しいという警告となるだろう」と述べた。

 サイバー攻撃への対応をめぐって、米国はこれまで、14年に産業スパイ容疑で中国人民解放軍の将校5人を、16年には米金融機関のサーバー機能を麻痺(まひ)させたなどとしてイラン人7人をそれぞれ起訴。また、昨年3月には、インターネットサービス大手ヤフーから個人情報を盗んだとしてロシア人ハッカーら4人を起訴している。

 北朝鮮のハッカーに対して法的措置が取られるのは初めてだが、今回は長文の告訴状を公開することによって米国のサイバー犯罪に対する強い姿勢を示した。チェン氏は「米国は今後も躊躇(ちゅうちょ)せず同じような告訴状の公開を続けるだろう」と語った。