和平合意の是非が争点 コロンビア大統領選、17日決選投票

 南米コロンビアで今月17日に大統領選挙の決選投票が実施される。ノーベル平和賞の対象ともなった和平合意の是非をめぐる戦いだが、現状は合意見直しを主張する候補が優勢となっている。
(サンパウロ・綾村 悟)

対ゲリラ強硬派ドゥケ氏が優勢

 2016年8月、コロンビア政府と南米最大の左翼ゲリラ武装組織コロンビア革命軍(FARC)は、電撃的ともいえる和平合意の共同声明を発表、世界中に大きなニュースとして伝えられた。

ドゥケ氏(右)とペトロ氏

コロンビア大統領選の決選投票に進んだドゥケ前上院議員(右)とペトロ前ボゴタ市長(EPA=時事)

 南米では、コロンビアやペルー、パラグアイなど左翼ゲリラが政府に武装闘争を仕掛けてきた国は少なくない。特に、半世紀以上、内戦を続けてきたコロンビアは、FARCが猛威を振るい、最盛期には2万人を超える武装構成員と麻薬密売などで得た豊富な資金力で、国土の半分近くを影響下に置いたほどだ。

 歴代政権は、幾度となく和平交渉に乗り出したが、どれもが失敗に終わっただけでなく、大統領候補や国会議員までもがゲリラに拉致され、政治交渉の道具にされた。激しい内戦は、コロンビアの治安や南米有数の資源を有する経済に大きな影を落としてきた。

 02年に大統領に就任したアルバロ・ウリベ氏(現上院議員)は、米政府から得た財政援助や一時的な増税を通じて国軍を強化、ゲリラ掃討作戦を開始した。攻撃ヘリなどを利用した掃討作戦は次第に効果を挙げ、ゲリラ側は有力リーダーを失うなど衰退。ウリベ氏の2期目が終わる10年までには、FARCの武装構成員は半数以下にまで減少したとされる。

 和平合意が実現した背景には、10年の初当選時から左翼ゲリラとの和平交渉に取り組んできたサントス大統領や仲介国の尽力に加え、ゲリラの弱体化があったことも事実だ。

 ただ、和平合意は国内で幅広い支持を得ていたわけではなかった。和平合意案は国民投票で賛否を問うことになったが、結果は反対意見が多数を占め、和平合意は一時的に頓挫することになった。合意案は翌年、再度国民投票にかけられることなく国会で可決されたことで効力を持つことになった。

 和平合意反対派の多くは、民間人に多くの犠牲を出し、なおかつ拉致、誘拐、麻薬密売など多くの犯罪に関わってきた左翼ゲリラとそのリーダーらに厳しい処罰が行われないことに不満を抱いている。さらに、FARCがゲリラ組織を解体して合法政党として再出発するに当たり、26年まで議会で10議席を保証されるなど、国政に一定の影響力を及ぼしている。

 ただ、合法政党に転換した「人民革命代替勢力(FARC)」は、今年3月の上下両院議会選で、さらなる議席の上積みを目指して立候補者を立てたが、党全体の得票率は0・3%と惨敗している。

 今月17日に予定されている大統領選挙の決選投票は、ウリベ氏が推す対ゲリラ強硬派の右派イヴァン・ドゥケ前上院議員(41)が優勢だ。先月27日の第1次投票では、トップとなる39%の有効票を獲得、2位の元左翼ゲリラ出身の和平合意継続派、グスタボ・ペトロ前ボゴタ市長(58)の25%に大きく差をつけた。

 ドゥケ氏は、FARCに厳しい処罰を行うべきだと和平合意内容に反対しており、同氏が当選した場合は、合意見直しに着手する可能性が高い。

 一方、ペトロ氏は、和平合意を支持、汚職撲滅や教育の無償化など社会保障を重視する政策を打ち出している。

 ドゥケ氏が当選して和平合意見直しが行われた場合、FARCから分派して現在もゲリラ活動を続けているグループが活発化する可能性がある。また、キューバで和平交渉を続けているもう一つの左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)との和平交渉が難航、もしくは中止となる事態も想定され、一時的な社会不安や経済の停滞につながりかねないと危惧されている。